寛大化・厳格化傾向(事例と人の評価・選択、評価面談、評価の罠)

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人の評価には、寛大化・厳格化傾向といった評価の罠があります。寛大化・厳格化傾向に代表されるような、人の評価の実務について、事例を交えながら記載します。

何をやるかよりも、だれとやるかが大事であるという言葉があります。こちらが選択すると同時に、相手からも評価選択されています。

人生においては、多くの人と巡り合う機会があります。自分が時間や労力を注ぐ相手は限られていますので、人の選択と評価は必要です。

人事評価面接においては、公平な評価を行わなければ、モチベーションが落ち、離職につながりかねません。一緒に働く相手を選ぶ採用面接があります。

寛大化・厳格化傾向

寛大化・厳格化傾向とは、人事評価を行う際、陥りやすい心理的な傾向のことです。

寛大化傾向・厳格化傾向
寛大化傾向・厳格化傾向(筆者作成)

寛大化傾向

寛大化傾向は、全般的に評価結果が高めになってしまうことです。その原因としては、評価者が被評価者の業務内容に精通してないため、よく見えてしまうためにおこります。また理由として評価者が、被評価者からよく思われたいという意識が働くなどが考えられます。

評価点(1~5 A~D等)において、他部門の管理職に比べ平均点が高い場合、記述式評価において今後の課題、改善点といった内容の記述がなく、肯定的な内容の場合が恒常化しているときには、寛大化傾向にある可能性が高いといえます。

評価者や被評価者に対する認識の甘さが原因であり、意図的に行われる特別扱いや優遇とは区別すべきです。

寛大化傾向のデメリット

被評価者の課題や改善点を指摘しないことによって気づきの機会が失われ、成長機会を奪うことにつながります。被評価者への遠慮が、結果として不利益を生み出すことになります。

寛大化傾向事例

寛大化傾向事例1

管理のE部長はIT(パソコンや情報システム)が苦手でした。そんなE部長のもとに、情報工学部出身のF君が配属になりました。アクセスやエクセルを使いこなすF君に感心したE部長は、情報システムプロジェクトのリーダーに抜擢しました。ところがF君は社内の業務の流れをよく理解しておらず、情報システムプロジェクトはトラブルを多発しました。

寛大化傾向事例2

初めて後輩を持ったK君は、張り切っていました。Kさんのもとに配属になったのは、新卒入社の美人のGさんでした。Gさんによく思われたいK君は、指導においても評価においても甘めでした。結果としてGさんは、基本的にビジネスマナーをおろそかになり、次の職場で苦労することになりました。

厳格化傾向

厳格化傾向は、全般的に評価結果が低めになってしまうことです。

原因としては、評価者が被評価者の業務内容に精通していたり、評価者自身の能力が高いため、自分を基準にして評価してしまうなどが考えられます。

また、厳しく接しないと部下が育たないと思い込んでいる場合や、自分自身が厳しく指導された体験が、尾を引いていることもあります。

厳しい評価が続き、離職者が発生したときには厳格化傾向の可能性があります。周囲の方との評価のギャップなど事実関係を確かめる必要があります。

厳格化傾向のデメリット

厳しすぎる評価は、被評価者のやる気を削ぐことになります。努力しても、評価されない思うようになり希望を失い、離職の原因となります。

厳格化傾向事例

厳格化傾向事例1

Cさんは加工では、社内随一の技術をもっていました。そんなCさんのもとに、その技術を学ばせようと若手のD君を配属させましたところが、Cさんは不慣れなD君の動きを見ていらだち、厳しい評価を付けました。D君はやる気を失い転職しました。実際には、D君はこつこつと努力し成長するタイプでした。D君は転職後10年で、転職した会社にとって、貴重で代えがたい技術者になりました。

厳格化傾向事例2

Zさんは、経理事務のベテランです。今まで多くの経験をしてきたために、ミスが発生するポイントを熟知していたため、セルフチェックを万全に行っていました。Zさんもそろそろ定年まじかになってきたため、引き継ぎをしなければなりません。後任のYさんは、決して能力の低い人ではなかったのですが、どうしても経験不足からセルフチェックするポイントが不十分です。自分にはないミスをするZさんは、Yさんを大変低く評価しました。Yさんは異動になりましたがほかの職場では問題なく仕事をこなしています。Zさんの後任はなかなか見つからず、苦労することになっています。

寛大化・厳格化傾向を防ぐ方法

評価基準を正しく理解します

日頃から部下の仕事振りを把握し記録します

具体的事実に基づいて評価します

甘過ぎる評価は部下の能力開発の妨げになることを認識します

厳しすぎる評価は、部下のやる気をそぐことを認識します

評価面談

人事評価のポイントは、記録と説明です。普段の行動を観察した事実関係をもとに、評価を行いフィードバックします。重要なのは事実関係と客観性です。人物の好き嫌いの感情をできるだけ排除し、会社や職場にとってどうであったかを冷静に評価します。

人事制度については下記投稿もご参考ください。

評価においてありがちな、陥りやすい評価の罠は以下のものがあげられます。

ハロー効果

評価をする時に、めだつ特徴に引きずられて他の特徴についての評価が歪められる現象のことさします。一般には、優れていることへの歪みを指すことが多いですが、劣っていることへのハロー効果も存在します。スポーツに優れていたり、字が上手だったりする場合、その人が学力や体力や字の上手さにおいてだけでなく、人格的にも優れていると思い込んでしまうケースが挙げられます。

ハロー効果事例

ハロー効果事例1

A君は大口取引先の担当者との気が合い、個人的にも親しくなり業績を向上させました。A君の上司はそれを見て、A君営業スキルを高く評価し、若手の営業チームを任せました。ところがA君は、ルートセールスは誠実な対応で安定していましたが、部下を育成したり、新規開拓をすることが不得意でした。若手の営業チームは期待の業績を上げることができませんでした。

ハロー効果事例2

管理部に配属になったBさんは幼少のころから、書道教室に通っており、字がとてもきれいでした。そんな様子を見た経営者は、きっと清潔な人格であろうと経理を担当させました。数年後、Bさんは悪い男にだまされ、不正な経理をして会社のお金を着服しました。

ハロー効果を防ぐ方法

先入観や思い込みを排除します。

一つの行動に 対して、一つ評価要素で評価します。

日常の観察によって得られた客観的事実を 元に評価します。

評価基準を明確にします。

逆算化傾向


最初に部下の総合評価を頭に描いておいて、要素ごとの評価で「つじつま合わせ」をしてしまうことです。最終評価結果から逆算して評価項目を調整することによって、実態と評価が一致しなくなる弊害があります。主観的・意図的評価になってしまうことは明らかです。1つひとつ要素ごとにきっちりと評価し、積み上げるという「手続き」に従わなくてはなりません。

逆算化傾向事例

逆算化傾向事例1

K部長は、部下の評価において、K君をA(優秀)評価にすることをはじめから決めていました。結果、つじつま合わせに実際に不足している能力評価においても、高い点数をつけてた結果、K君はその能力を過信してしまいました。

逆算化傾向事例2

評価基準を明確にします。

行動を観察、記録するなどして、事実を正確に把握した上で評価します。

直属の上司だけではなく、関連部署の上司も評価者として評価をおこない、2者で評価した内容を補正しながら妥当な評価を行います。

最終評価結果を、逆算できないように、ロジックを組みます。個別の評価項目だけを評価し、総合評価はつけないようにします。

対比誤差


評価者が、自分の能力・特性と反対の方向に部下を評価してしまう傾向のことです。「できのいい」評価者(つまり部下の自分にないよさを認める度量がある評価者)ほど要注意です。自身(評価者)と反対とまたは同じ特性を有する被評価者を評価する際、特に注意する必要があります。人事評価は、評価基準に照らした絶対評価であり、間違っても自分との相対評価ではありません。評価者の得意な事については、比較的厳しく評価する傾向があります。

対比誤差の事例

生産部のK課長は、自分とは違い社交的で明るいM君をおとなしいL君より高く評価していました。実際に生産技術に優れており生産性が高いのはL君でした。

近接誤差


評価時点により近い期間の行動や成果のほうが印象に残り、近接時点のものをより強く評価してしまう傾向です。近接誤差は防ぐためには、被評価者の行動や成果のメモなどの記録をまめに取っておくことなどがあげられます。

中心化傾向

評価が中央に集まってしまう傾向のことです。出来るだけ当たり障りのないようにとの心理が働くもので、被評価者を良く理解していない、自分の評価に自信がないなどが原因としてあげられます。評価者に対して部下が多すぎるときや、職場の協調や雰囲気への影響を重視するときにも、この傾向が出る場合があります。

評価の罠を防止するのは、人事調整会議で評価者と経営陣が集い、個別に評価のむらを補正することも有効です。

目標設定や評価面談に際しての傾聴のスキルについては、以下の投稿もご参考ください。

採用面接

採用面接は、限られた時間でお互いを判断します。一種の見合いとも言えます。面接をする方も、選択評価されていることを忘れてはいけません。立ち居振る舞い、身だしなみはもちろんチェックします。採用面接は、応募者側も相当準備しているのが普通です。業界知識、志望動機、会社概要、経営理念などをチェックして、話す内容を準備しています。逆に言うと準備していない場合は、不用意と判断されても仕方ありません。

応募者が準備しているからこそ、評価は難しいものになります。面接時の評価と実際働いてみたときの評価に乖離が生じることが良くおこります。

応募者の素顔を知る面接方法の一つ、模造紙プレゼンは以下の投稿の~採用面接の際の注意点~の項目もご参考ください。

そのほか、応募者の素顔を知る方法としては、質問の技法があります。できるだけ志望者の体験談や考え方を具体的に聞き出す質問をします。根掘り葉掘り聞こうとすると圧迫面接にとられかねないですが、苦労話などの体験談をやわらかに聞き出すとよいでしょう。代表的な質問としては「なぜそれに取り組んだのか」「初期の目的を達成するために、どのような工夫をしたのか」「どのような課題が発生して、乗り越えるために何を心掛けたのか」などがあげられます。

もちろん、応募者が多い場合は、書類選考で応募者のキャリアを見ることも、必要かもしれません。書面だけでなく、応募者の人なりをお見合いのように向き合うことも大事です。応募者の人となりや職場との相性は、特に入社後の周りとの連携や成長に大きくかかわってきます。

まとめ

人の評価・選択の考え方についてみてきました。不公平や好き嫌いの評価をしていると、どんなに理屈を準備しても、自ずと周囲には明らかになってしまうものです。チームワークの良いやりがいのある職場を形作るために、評価者はできるだけ事実関係と公正な評価を心掛けるべきでしょう。

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