人事制度とは 等級・評価・報酬制度と事例

人事 キャリア

人事制度とは、人材の処遇に関する仕組み全般のことです。「職務等級制度」「評価制度」「賃金・報酬制度」を指すこともあれば、広義に福利厚生や人材教育まで含むこともあります。成長戦略の中での人事制度を事例を交えて見ていきます。企業の強みの源泉の多くは人材にあります。人材の成長こそが、企業の成長につながります。したがって経営における成長戦略と人事制度の関係は重要です。

人事制度の主要要素(等級制度・評価制度・報酬制度)

人事制度の主要な要素は、一般的には「等級制度」「評価制度」「報酬制度」です。

等級制度

等級制度は求める役割や能力、職務を定義します。一般的には次の三つがあげられます。

  • 職能資格制度 業務を遂行するの能力で決める制度
  • 職務等級制度 担当している職務のレベルで決める制度
  • 役割等級制度 業務の内容と能力を掛け合わせて決める制度

評価制度 

等級制度や報酬制度と連携して、従業員を評価する仕組みです。大きくは成果主義評価制度と能力主義評価制度に分けられます。

報酬制度

等級制度と評価制度に基づいて、給与、賞与、退職金などを決める制度です。

人事制度(評価制度)と業績評価

業績評価は組織としての評価です。一方、評価制度は個人としての評価です。人事制度を考えていくうえで大きな課題は、業績評価と評価制度の結びつきです。個人の組織における貢献度合いを、できるだけ客観的に計測して処遇に結び付けることが、人事制度のテーマとなります。

人事制度と業績評価
人事制度と業績評価(筆者作成)

組織の業績評価は様々な指標があります。会社全体の評価、営業部の評価、管理部の評価、チームの評価、個人の評価とブレークダウンしていくことが、目標設定の考え方です。

まず会社全体の業績評価として最もわかりやすいものとして、営業利益が上げられます。営業利益は会社本業のもうけを表しています。損益計算書と営業利益については、下記投稿も参考にしてください。

営業利益は、売上総利益(粗利)から販売費および一般管理費を差し引いたものになります。営業利益を上げるためには、売上総利益を拡大するのか、販売費および一般管理費を抑えるかどちらかになります。

組織に適用していくと、売上総利益(粗利)の確保は営業部の目標設定になるでしょう。ところが、では販売費および一般管理費を抑えるのが管理部の目標設定として果たして適切でしょうか。

確かにコスト削減は大事です。しかし、人件費を抑えることばかりが管理部の目標になれば新規人材採用さえもままなりません。

営業利益などの短期業績評価と、組織の目標や人事評価については、分けて考える必要があります。例えば、研究開発部門はどうでしょうか。研究開発費をコストダウンすると将来の競争力低下につながりかねません。一方では、先進的な研究開発を行っても、将来の業績向上に役立たない場合もあります。

財務指標以外の指標を重視するバランススコアカードなどの業績評価のフレームワークは、昔から数多く考えられてきましたが、特に短期業績評価と人事評価のリンクさせることは、成果報酬型の営業職を除くと、難しいのが正直なところです。

短期業績と人材育成のバランス

一つ目の解決策としては、短期業績と中長期的な人材育成を分けた考え方です。代表的なのしくみは、賞与は、目標管理による短期業績と連動させ、年一回の昇格評価は中長期的な人材育成の観点から能力や役割評価を導入する考え方です。

人事評価の考え方
人事評価の考え方(筆者作成)

もう一つの解決策は、環境分析に応じた成長戦略と人事評価を密接に設計し運用することです。

例えば研究開発については、業界における企業のポジションと、将来の技術動向を踏まえたうえで、将来の顧客ニーズを満たす商品開発に資する研究開発を行うことを、業績評価にします。

人事部については、成長戦略を実行するあるべき人材のと意義と教育研修の仕組みを整備し、ポテンシャルの高い人材を採用育成するということが業績評価になります。

成長戦略に沿った形の組織の設計と目標の設定が、人事評価にとって極めて重要です。では人事評価の仕組みはどのようなものがあるのでしょうか。歴史から見ていきましょう。

人事制度の変遷

年功序列制度

年齢や、勤続年数に応じて賃金や役職が上昇する人事制度です。年長者を敬い、所属する組織に対する忠誠心が高い日本の文化に適合し広がりました。高度成長時代の雇用確保には貢献しましたが、国際競争力向上のために1969年経団連が中心となり、能力主義の人事考課の導入が進んできました。

社歴が長いものが、後から入社してきたものに追い抜かれることでモチベーションが下がることを嫌い、現在でも実質的に、年功序列制度をとっている企業もあります。

能力主義人事制度

潜在的・顕在的能力(企画力、技術力など)に「協調性」「積極性」「規律性」「責任性」情意が伴って、成果に結び付くという考え方が代表的なものです。

成果の考え方
成果の考え方

情意評価は主に、成果を計測しにくい初級職の評価に使われてきましたが、近年においては成果主義の弊害から情意評価が再評価され、上級職の情意評価の導入が進んでいます。

職能資格制度

職能資格は職務や役職に関係なく、従業員が保有していると思われる能力の程度に応じて”資格”が付与できることから、年功序列及びローテーションを基礎とする日本型人事制度を根幹から支えてきました。

職務等級制度

現在ついている仕事のレベルと、その仕事の市場賃金相場に応じて賃金が決定する制度です。アメリカでは非常に一般的であり、日本の多くの企業も職務等級制度を導入しました。

仕事のレベルの定義(ジョブスクリプション)がしっかりしていることが必要であり、人事異動による賃金の変動幅の大きさが、運用上の問題点として指摘されています。

MBO(目標管理制度)

個別またはグループ別に毎年その目標を設定し、年度末にその達成度を評価する人事制度です。1950年 ピータードラッガー提唱しました。

成果主義導入の際に、ツールとして使われることがありましたが、業績評価における数値目標の基準の適切性、会社業績と個人の業績のリンク、他部門との連携など様々な問題点が指摘されています。

目標設定の適切な面談方法については、以下の投稿もご参考ください。

コンピテンシー評価(行動評価)

コンピテンシーは、「職務や役割における効果的ないしは優れた行動に結果的に結びつく個人特性」と定義されています。米ハーバード大のマクレランド教授(心理学)がMcBer社とともに発表しました。

コンピテンシー評価による人事制度再構築は、職種別に高い業績を上げている従業員の行動特性を分析します。行動特性をモデル化して評価基準とし従業員を評価することで、従業員全体の質の向上を図ることを目的とします。

近年の人事制度のトレンドは、具体的な行動と役割評価です。役割とは、経営戦略から部門のミッション、各自の役割を定義づけます。役割に応じた行動を評価します。

人事制度の事例

人事制度の事例 株式会社メルカリ

2021年9月1日に多様な働き方を尊重したメルカリ・ニューノーマル・ワークスタイル「YOUR CHOICE」発表しました。

  • オフィス出社、フルリモートワーク勤務は各社員が選択できます。
  • 住む場所、働く場所も選択可能(セキュリティ要件の例外あり)
  • 出社の有無によっての不公平な扱いはありません。

2018年1月には、3つの行動指針のGo Bold(大胆にやろう)、All for One(全ては成功のために)、Be Professional(プロフェッショナルであれ)のもと、既存の人事制度を刷新しました。

  • 一人ひとりを客観(絶対)的に評価します。
  • ノーレイティング(事業部単位やチーム単位で原資を分配しない)

人事制度の事例 株式会社ディー・エヌ・エー

評価は、業績と発揮能力の2つの軸で行われます。

半年ごとに上司と部下で目標を設定した業績(成果)は、ボーナス(賞与)の査定に利用されます。

社員が属するグレードの階層に照らし合わせた発揮能力(成長度合い)は、基本給に反映されます。

人事異動制度「シェイクハンズ」

異動先部署と本人が合意すれば、直属の上司の承認なしに異動できます。

まとめ

業界によってもまた、個別の企業によっても適合する人事制度は異なってきます。

例えば、保険代理店の営業の評価は、新規契約と契約継続率の二つの組み合わせで評価します。この考え方と在職中に業績が目に見えて出ないことさえもある製薬会社の研究開発職は、全く異なった人事制度が必要です。

まとめとして人事制度のポイントは2つです。一つ目は会社の成長戦略と人事評価を密接に結びつけることです。そのためにあるべき人材像と育成のシナリオに沿った人事制度を構築します。もう一つは、賞与に連動させる短期業績と月額給に反映させる中長期の人材の育成を切り分けることです。

本投稿が、適切な人事制度の設計と運用の一助になれば幸いです。

コメント

タイトルとURLをコピーしました