マーケティングとは、売れる仕組みを作ることです。基本の3つ要素があります。①誰に ②どのような価値を ③どのように提供するかです。マーケティング戦略とは「顧客に価値を提供する方法論」であると言い換えることもできます。マーケティングの戦略、フレームワーク、マーケティングミックスと事例について考察します。
マーケティングの定義
ピーター・ドラッガーのマーケティング
マネジメントの発明者であり経営学者のピーター・ドラッガー(1909年~2005年)によると
企業の目的が顧客の創造であることから、企業には二つの基本的な機能が存在する。すなわち、マーケティングとイノベーションである。
顧客が買っていると考えるもの、価値と考えるものが決定的に重要である。事業が何であり何を生みだすかを規定し、事業が成功するか否かを決めるのは、それらのものである。
ドラッカー名言集
ドラッカーはまた、マーケティングと販売(セリング)は真逆で補うものでさえないとしています。
販売は、企業の作ったものを売る活動ことですが、マーケティングは顧客ニーズを理解したうえで、製品・サービスを自ずから売れる状態にすることとです。
フィリップ・コトラーのマーケティング
ノースウェスタン大学大学院教授であるフィリップ・コトラー(1931年~)は、マーケティングの神様と呼ばれています。
フィリップ・コトラー教授によると「マーケティングは、ターゲット顧客に対してより優れた価値を創造し、コミュニケーションし、届けること。最新のマーケティングは、マーケティングを企業の成長エンジンと捉える。」としています。
マーケティング戦略のフレームワーク
STP分析(マーケティング戦略のフレームワーク)
STP(エスティーピー)分析は、フィリップ・コトラー教授が提唱したマーケティング戦略のフレームワークです。セグメンテーション(Segmentation:市場細分化)、ターゲティング(Targeting:狙う市場の決定)、ポジショニング(Positioning:自社の立ち位置の明確化)の3の頭文字をとって名付けられました。
セグメンテーション(Segmentation)
セグメンテーションでは市場を細分化します。
法人軸としては、業界(業種、業態)、規模(売上・利益・従業員数等)、状況(購買方針、使用頻度、緊急性、受注量)です。
消費者軸では、地理的側面(国、地域、気候)、人口統計側面(年齢、性別、学歴、家族構成)、心理側面(趣味趣向、価値観、ライフスタイル)、行動側面(買う頻度、タイミング、用途、購買心理)などがあります。
ターゲティング(Targeting)
ターゲティングとは、細分化された市場の内どの市場を狙うかを決めることです。市場のニーズ、自社の強み、他社に比べて優位性を考慮してターゲティングを行います。
ターゲティングには3つのパターンがあります。
- 無差別型ターゲティング:大企業に多く、同じ市場に同じ商品を提供します。
- 差別型ターゲティング:複数のセグメント(細分化された市場)にニーズのあった商品・サービスを提供します。
- 集中型ターゲティング:ニッチな市場に集中してマーケティングを行います。
ポジショニング(Positioning)
ポジショニングは、ターゲティングした市場の競合商品やサービスを見て、自社の立ち位置を明確にします。競合と比較する軸(価格・性能・販売方法等)を持ち、自社が戦うべきポジションを決めます。
ポジショニングでは、ポジショニングマップを利用して戦略の可視化を行います。
ポジショニングマップは品質軸、価格帯軸によって、ディスカウント戦略、高シェア戦略、ニッチ・競争回避戦略、トップブランド戦略と切り分けてマーケティング戦略を考案します。
また、ポジショニングマップは新規参入の際の、自社投入商品のポジション可視化や、競合分析の時にも活用します。
ペルソナ:ターゲット顧客を深堀する(マーケティング戦略のフレームワーク)
STP分析を行ったうえで、より具体的な顧客像(ペルソナ)の設定を行うことがあります。
ペルソナはB to Cであれば、実在の人物のように設定します。ライフスタイル、価値観、家族構成と年齢性別、居住エリア、職業、趣味や特技等です。
ペルソナはB to Bであれば、業種、企業規模、取扱商材、エリア、担当部門・役割、担当者属性などです。
ペルソナを設定することで、ユーザー視点の精度を向上させます。ユーザーニーズの深堀を行うことで、製品・サービスの提供価値を具体化することができます。
製品・サービスの提供付加価値(マーケティング戦略のフレームワーク)
定義された顧客へ、製品・サービスの提供する付加価値を明確にします。 提供付加価値とは、顧客課題や顧客ニーズを満たす機能や便益、得られる満足感などです。
例えば顧客への提供付加価値を説明するために、ドリルの話があります。 ドリルを購入する理由は、器具としてのドリル(固く細いらせん状の金具を高速回転させる器具)の機能ではありません。 「穴をあける」という便益を求めいます。
ガーデニングの自作の棚を作る機材を購入する動機は、棚自体の機能ではありません。ガーデニングの棚に咲く花を通じて、四季の自然を自宅で体験することが価値です。
マーケティングにおける顧客提供価値とは、モノのもつ機能や物性ではなく、顧客が得られる便益や体験なのです。
提供付加価値が顧客の購買理由となり、ビジネスの利益を生む源泉となります。
顧客提供価値についての下記投稿もご参考ください。
4P(どのように提供するか)(マーケティング戦略のフレームワーク)
マーケティングの基礎として、誰に(ターゲティング・ペルソナ)、何を(提供価値)を考案したら、「どのように提供するか」です。4P(Product:製品・サービス Price:価格体系 Promotion:広告・販促 Placement:販路)は「どのように提供するか」を検討するフレームワークです。4Pを適切に組合せはマーケティングミックスともいわれ、効果的に市場へ製品・サービスを提供するために活用します。
Product:製品・サービス
ターゲットに対して、どのような製品・サービスを売るのか、競合に対してどのように差別化していくかのコンセプト作りです。
Price:価格体系
ターゲットに、いくらで届けるのかです。価格帯の設定をおこないます。
Promotion:広告・販促
ターゲットに、商品・サービスの存在を認知してもらいます。どのような特徴があり、魅力があるのかを伝えます。マスメディア広告、プレスリリース、ホームページやSNSによる発信、検索エンジンへの広告などがあります。
Placement:販路
ターゲットへ提供経路や手段です。卸売業、店舗、ネット、通信販売など多様な販路の中で、最適な手段を検討します。
マーケティング戦略の実行においては、自社の製品・サービスを4Pの切り口で分析を行い、強みや課題の洗い出しを行います。
マーケティングミックス
マーケティング戦略においては、STP分析などフレームワークの結果をもとに、マーケティングミックスを行い実行へと移ります。マーケティングミックスは「実行戦略」です。
4Cのマーケティングミックス
4Cは、1993年経済学者ロバート・F・ロータボーン氏(アメリカ)により分類された顧客視点のマーケティングミックスです。
Customer Value(顧客価値)
顧客にとってニーズがあり価値があるかどうかを見ていきます。顧客価値には、味、におい、利便性、取扱い容易さ、性能、品質、デザイン、ブランドイメージなどがあります。
Customer Cost(顧客が負担するコスト)
顧客にとって妥当な価格帯なのか、提供するまでのリードタイムや作業時間である時間コストも考慮します。
Convenience(顧客利便性)
顧客の求めるアクセス、決済方法、買いやすさなどの利便性を検討します。
Communication(顧客とのコミュニケーション)
顧客接点における質問や相談のしやすさ、クチコミや顧客とのコミュニケーションによる双方向が重要になってきています。
市場競争が激化し差別化が必要になりました。また、顧客ニーズも多様化している背景もあり、マーケティングミックスは4Pの「売り手視点」から4Cの「顧客視点」にシフトすることが求められています。
現在のマーケティングの潮流
ウェブマーケティング
ウェブサイト、検索エンジンのアクセス履歴を解析したり、リスティング広告、アフィリエイト広告、SNS広告などのウェブ広告を使って、ターゲティング、商品・サービスの設計、集客、アフターフォローを行います。単純なBtoCの消費財ウェブ販売だけではなく、BtoBでの商取引も、ウェブを通じてマーティングが行われる機会が増加しています。
デジタルマーケティング
デジタルマーケティングは、インターネットやIT技術などデジタルを活用したマーケティングです。インターネット、スマートフォン、アプリのアクセスや行動履歴のデータを蓄積します。またIoT製品による広がるデータ収集方法、ビックデータやAI活用などにより、顧客の提供価値を創出するマーケティング活動です。
デジタルマーケティングについて詳しくは、下記投稿をご参考ください。
マーケティングオートメーション
マーケティングオートメーション(MA)とは、デジタル技術(IT、AI)でターゲット、顧客の情報を管理し、マーケティング活動を自動化する概念およびツールです。多くの顧客へのアプローチ活動において、作業効率を高め、営業・マーケティング部門の生産性を向上させます。
マーケティングの事例
マーケティング成功事例(ユニバーサル・スタジオ・ジャパン)
ユニバーサル・スタジオ・ジャパンは2001年に開業しました。初年度は1100万人の集客を集めたものの以降来客数は伸び悩み、開業から3年後の2004年には事実上の経営破綻状態に陥りました。
このような状況で、2010年にP&Gでマーケティングの実績を積んだ森岡 毅氏が入社しました。その手腕で、2015年には1390万人の入場者を記録し、単月でTDL(東京ディズニーランド)を抜いて日本一のテーマパークにまで成長しました。
森岡氏が打ち出したのは、前掲ドラッカーの定義するプロダクトアウト(売り手視点 ゲストが喜ぶだろうと提供サイドが思うもの)から、マーケットイン(消費者視点 ゲストが本当に喜ぶもの)への改革です。
以前は、アトラクションなどの企画・製作の仕組みはクリエイティブサイド主導でしたが、マーケティング部が消費者のニーズを汲み取って、企画を決定し、製作においても、適宜消費者のニーズや消費者視点から逸脱していないか、マーケティング部が確認する仕組みを構築しました。
「ハロウィン・ホラー・ナイト」マーケティング成功事例
森岡氏が入社当初、予算をかけられない中、成功した企画が「ハロウィン・ホラー・ナイト」です。来場者が仮装してパレードを楽しむため、新たに設備を用意する必要があまりありませんでした。
マーケティングターゲットである「ストレスを溜めがちで発散する場所が少ない若い女性」が、大声で叫んだり、騒いだりしても問題のない環境を提供するコンセプトで企画されました。
設備投資の代わりに、ゾンビに特殊メイク技術とは演出が施され、ゲストが思い切り叫ぶことができる非日常の空間という、ハロウィーンの体験価値を提供しました。
初日の来場者数は、想定の3倍の6万人、7万人程度で赤字だったハロウィーン・イベントを黒字化とし、最終的に追加集客数で40万人を超えました。
このような例の通り森岡氏は、ゲストへの提供価値を「ゲストが求めているものはアトラクションではなく、アトラクションを体験した際に起こる感情の変化」であると定義しています。
参考:USJを劇的に変えた、たった1つの考え方 成功を引き寄せるマーケティング入門 森岡 毅著
顧客体験であるカスタマーズエクスペリエンスについては、下記投稿もご参考ください。
まとめ
マーケティング活動は、顧客(消費者)視点であり顧客体験を提供価値とします。営業や広告宣伝に力を注ぐだけではなく、サービスや商品企画の段階から、顧客に寄り添い売れる仕組みを作ることを重視します。不確実性と多様性の現代においては、マーケティング活動はますます必要不可欠な要素となります。
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