カスタマーエクスペリエンス(CX)とは商品・サービスの利用の際の顧客視点での体験です。顧客体験を幅広くとらえ、顧客視点から購入前の段階、購入する際、購入後のサポートまでの体験全体としています。本投稿ではカスタマーエクスペリエンスの具体的な事例と、顧客視点の体験価値を活用する戦略について記載します。
カスタマーエクスペリエンス(CX)とは
カスタマーエクスペリエンス(CX)とは、「顧客経験」・「顧客体験価値」と訳されます。商品・サービスの購入や利用にかかわる、さまざまな顧客体験を価値として提供する考え方です。
感情面の価値
カスタマーエクスペリエンスは、感情面の価値を重視します。製品・サービスの基本機能は、競合他社に追随されコモディティ化し、価格競争に巻き込まれます。カスタマーエクスペリエンス(感情面の価値創造)によって競合他社と差別化をはかり、顧客提供価値を引き上げ、自社を選んでいただく理由となり、競争優位と利益の源泉にもなります。
カスタマーエクスペリエンスで重視される感情面の価値は、SENSE(感覚的価値)、FEEL(情緒的価値)、THINK(創造的・認知的価値)、ACT(肉体行動、ライフスタイルに関わる価値)、RELATE(準拠集団への帰属価値)の5つに分類されます。
「経験価値マネジメント」バーンド・H・シュミット
他の用語との違い(顧客体験 顧客満足度 顧客成功)
類似した用語に、顧客満足度(カスタマーサティスファクション)、顧客成功(カスタマーサクセス)があります。
顧客体験(カスタマーエクスペリエンス)は文字通り、顧客の体験を購入時点だけなく、商品・サービスの検討段階から、購入後のアフターサービスまでの顧客体験を高めるプロセスのことです。
一方、顧客成功(カスタマーサクセス)は、顧客の成功・目標に対して、顧客が行動できるように働きかけていくことです。物質・条件面の側面です。
顧客満足度(カスタマーサティスファクション)は、提供サービスの目指すべき状態です。
顧客満足度が高まることによって、最も効率のよく事業継続性に大事な、紹介・口コミ・リピートオーダーが得られます。
ユーザーエクスペリエンス(UX)は、顧客の個別の体験のことを指し、カスタマーエクスペリエンス(CX)は商品・サービスの購買・利用者が、受けた体験全体のことを指しています
重要なポイントは、販売のみならず顧客体験を幅広くとらえていることです。販売時点にのみに焦点を当てるのではなく、顧客が商品・サービス知ることから、利用後のメンテナンスも含めたトータルプロセスの最適化と顧客満足の最大化を目指すことによって、事業・営業の継続した発展を行います。
(デジタル)カスタマーエクスペリエンスの時代背景
インターネット技術の発展、SNSの普及により、情報発信が世界同時双方向の時代となりました。
顧客は、企業側の接点に頼ることなく商品を選定し、情報発信を行います。
デジタルカスタマーエクスペリエンス、すなわちインターネットを活用したオンラインでの顧客体験の向上が、重要な他社との差別化につながっています。
デジタルカスタマーエクスペリエンスの事例
- メルマガ、オンライン広告
- SNSによるインフルエンサー投稿
- 360度写真活用のECサイト
- 顧客体験クチコミサイト
- デジタルセルフサービスによるトラブルシューティング
店舗型のデジタルカスタマーエクスペリエンスについては、下記投稿もご参考ください。
カスタマーエクスペリエンスのメリット
顧客による情報拡散力の活用
製品の良さや体験をほかの顧客に伝えたい顧客体験情報は、対面による紹介から、クチコミやSNSによる拡散へとひろがり、企業のプロモーションに大きな影響を与えます。
ブランディング
資本力を活用したCMなどの広告によるブランディングだけでなく、実際に製品を利用した顧客体験情報が重要視されるようになりました。ブラディングによる価値向上については下記投稿もご参考ください。
リピートオーダーと顧客関係の継続
顧客体験の向上はロイヤルユーザー(他社への切り替えがない顧客)獲得につながります。継続した安定顧客(ファン)の存在は、リピートオーダーや紹介促進となり、長期的な企業の業績に大きな貢献をします。
カスタマーエクスペリエンスの特徴
長期的な顧客体験
カスタマーエクスペリエンスは、購買時点だけに焦点を当てるのではなく、商品・サービスを認知する段階から、アフターフローまでの体験全体を対象にします。体験ベースによる、商品・サービス全体のブランドイメージを体感させることによって、リピートオーダーや長年の愛顧の獲得を目指します。
現代や今後において、B to C(消費者向け)のみならず、B to B(法人向け)の購買検討プロセスが長期化しており、カスタマーエクスペリエンスの重要性が浮き彫りになっています。
物質価値と感覚的・心理的価値
カスタマーエクスペリエンスは、商品・サービスが提供する物質的価値のみならず、快適さや居心地の良さなどの感覚的価値を見ます。また、顧客が特定のブランドの利用に自らのアイデンティティを感じる心理的価値によって、ロイヤルユーザー獲得につながります。
世界の消費者意識調査2019(プライスウォーターハウスクーパース)
今必要なのは消費者中心の指標:「体験からのリターン」
27の国と地域、21,000人以上のオンライン消費者を対象としたPwCの第10回世界消費者意識調査(GCIS:Global Consumer Insights Survey)では、企業の成功を判断する指標として、従来の投資効果(ROI:Return on Investment)に加え、カスタマーエクスペリエンス(顧客の体験、CX:Customer Experience)に着目した指標、すなわち「体験からのリターン」を導入することの必要性が明らかとなりました。
引用:PwCホームページ
カスタマーエクスペリエンス向上の方法
顧客データの整備・活用
提供する製品やサービスの顧客像であるペルソナを明確化します。
消費者ペルソナであれば、年齢・性別・収入・家族構成・居住活動地域・習慣などです。
事業主ペルソナであれば、規模・業種・地域・経営者・部署・社歴・取引先などです。
ペルソナの具体的なライフスタイルや商品の活用シーンのライフサイクルを、想像し設計することがポイントです。
カスタマージャーニーの作成
ペルソナの行動を理解するために、問題意識、情報収集、条件検討、購入決定、商品使用、アフターサービス購入、支持獲得までのプロセスを設計します。
カスタマーエクスペリエンス(CX)の事例
デジタルカスタマーエクスペリエンス(CX)の事例 ニトリ
ニトリは、バーチャルショールームのVR(バーチャルリアリティ)ショールームを提供しています。
ニトリが提案するコーディネートを、実際の空間で演出しています。気になった商品は、そのまま購入することもできます。インターネット3D空間を自由に移動して、感情面の価値も提供しています。
ニトリでは、商品の売れ行き、顧客特性、需要予測などのデータ分析は基本としながらも、顧客とのやり取りというカスタマーエクスペリエンスを大切にしています。
カスタマーエクスペリエンス(CX)の事例 アリアンツ社
300万人以上の保険加入者がいるオーストラリアのアリアンツ社では、カスタマーポータルをリニューアルし、データベースなどの既存システムを統合を行いました。
ユーザーアカウントの作成、保険プランの検索、見積保存、注文、通知の受信など、シームレスな顧客体験を提供できるカスタマーポータルを構築し、顧客満足度の大幅な向上に成功しました。
また各ユーザーのログを追跡し、新たな顧客への価値提供を実現するためにログが活用されます。
カスタマーエクスペリエンス(CX)事例 飲食店
飲食店でのプロセスは、まず、外食欲求からスタートします。利用シーンとしては、多様な顧客層から、訴求したいターゲット像を絞り込みます。エリア、年齢層、利用シーンです。休日の家族のお出かけ、ビジネスパーソンのランチ、友人との飲み会など様々です。
次に、来店動機を設計します。利用シーンによって、立地、通りの幟や店舗の外装を考えます。興味を持った時のメニューと価格体系の見せ方によって入店の意思決定を促します。
方法論としては、来店理由のアンケートや聞き取りなどで店舗の強調点を工夫します。
店舗内の内装、インテリア、来店の時間帯、提供するメニュー、盛り付け、容器、オーダーからのリードタイム、出すタイミングと提供方法、接客、食後の飲みものやデザート、来店顧客のトータルの入店体験の演出を設計します。
来店後は、ポイントカードや名刺によって顧客データを収集して、メールやはがきによって再来店を促進する方法もあります。
さらに入店顧客の画像データによって、顧客属性や行動をAIで分析します。曜日や天候によって、人員シフトやメニュー、仕入れの最適化を行う店舗もあります。
入店体験が、リピートオーダーや友人を連れてくる動機となります。またwebサイトによる、口コミでの採点と書かれ方が、今後の集客に重要です。
カスタマーエクスペリエンス(CX)保険営業の事例
人生において生命保険を考えるシーンは以下の通りです。
成人、結婚、離婚、出産、身近の人の不幸、健康不安、友人の加入情報、新卒就職、転職、独立開業時、老後・病気への不安です。
保険営業の役割は、このような保険のニーズが発生する見込み客心理状況を察知して、ニーズの喚起を行います。
人とのつながりの広さと深さが重要なのは、顧客接点において、ニーズ喚起時に相談を受けた保険営業が有利なためです。
ニーズ喚起においては、顧客の心理状況の把握が大事です。不安や将来の希望の聞き取り、寄り添う姿勢があれば、心を開いて相談してくれます。
不安や希望の解決策として、保険を提案すれば、顧客は満足を覚えます。
契約後のアフターフォローも大事です。契約後忘れがちな保険の内容を、確認しながらも顧客の状況の変化に応じて、必要であれば追加や解約の相談に応じます。保険事故発生時に、素早く給付を行うための手続きを行います。
保険の契約、変更、給付のみならず、顧客の人生設計、仕事や家庭の悩み、顧客の家族、友人関係まで踏み込んで相談相手に乗るのがライフプランナーである保険営業のカスタマーエクスペリエンス(CX)です。
カスタマーエクスペリエンス(CX)による競争優位
企業との差別化要因という強みの磨き上げの観点で、カスタマーエクスペリエンス(CX)を見てみます。上記の事例で言うと、例えば飲食店です。多忙の中、旧知の仲の友人であるが、転勤でしばらく会ていない友人が、近況の情報交換と今後のビジネスの可能性について、食事でもしながらという話になったとします。
友人の出張のついでなので、オフィスの近くでランチを取ることにしました。どのような店を選ぶでしょうか。
立地はオフィスの近くです。落ち着いて話がしたいので、区切りのある個室が良いでしょう。単価は2000円を超えても夜の飲み会に比べて安く済みます。食後のコーヒーが落ち着いて、ゆっくり飲めるところが良いでしょう。
以上のような顧客体験にマッチした店づくりを考えると、単価は高めでも、事前にランチ予約がとれて個室を提供できる店ということになります。食事が終われば見計らって食器を下げて、コーヒーはこだわりの豆で提供します。広めの食卓にノートPC用の電源とWi-Fiを用意します。
探してみるとこのような店は意外と少なく他店との差別化になっています。広告宣伝にもこの点を打ち出します。
以上のように、顧客体験や感覚から、提供サービスやビジネスプロセスを見直していくことによって、競争優位による差別化をはかります。
まとめ
カスタマーエクスペリエンスとは、顧客の体験や感覚を幅広くとらえ、競争優位を生み出す最適なビジネスプロセスの設計です。ユーザーニーズを体験や感覚という観点から、情報収集して分析する仕組みが、新事業開発においても活用できます。
現在の顧客体験情報を収集には、主に、お客様アンケート、コールセンターでの通話履歴、WEB上でのトラフィック、口コミサイトなどが活用されてきました。
今後は、画像データによるAI解析の活用拡大が予想されます。画像データによるAI解析は膨大な顧客属性と行動、感覚の情報を提供分析します。また、人が思いつかないような最適解もシミュレーションします。
サービスやビジネスプロセスの設計において、ビックデータも含めた顧客の行動や感覚を取り入れて、顧客満足度を高める経営努力が問われる時代です。
コメント