従業エンゲージメント(忠誠心)とは、従業員が所属企業への存在意義や目的(経営理念など)に共感し、ビジョンや経営方針を信頼し貢献の意欲を持っている状態を指します。本投稿では、組織力を強化する従業員エンゲージメント(忠誠心)について事例をまじえ記載します。
従業員エンゲージメントの背景
従業エンゲージメントが重視されている背景としては、少子高齢化による人材不足があります。
働き方の多様化や新型コロナウィルスの影響によるリモートワークの普及の中、優秀な人材の流出を防ぐことがますます重要な経営課題となっています。
経営に対する信頼と共感による従業員エンゲージメントを高めることは、時代の要請とも言えます。
従業員エンゲージメントと従業員満足度
従業員満足度はES(Employee Satisfaction)ともいわれ、給与や役職といった人事処遇だけではありません。福利厚生、職場環境、仕事のやりがい、上司や同僚との関係なども含めた、自社で働くことに対しの従業員の満足感を示す指標です。
従業員エンゲージメントと従業員満足度は因果関係にあります。従業員の満足度が高いと、所属組織についてエンゲージメント(忠誠心)をもつ傾向があるからです。
両者の違いは、従業員満足度は居心地の良さを表す指標であることに対して、従業員エンゲージメントは、経営に対する共感や信頼をベースに貢献意欲が高い点を重視する点です。
従業員エンゲージメントのポイント
経営への共感
従業員が企業理念(経営目的、存在意義、ビジョン)を価値観として理解することで、経営方針に対して共感することができます。企業があるべき姿を自分がありたい姿を重ね合わせることで、同じ方向を向くことができます。
ビジョンとあるべき姿については下記投稿もご参考ください。
行動意欲
従業員エンゲージメントは、従業員が自発的に考え、行動しようとする意欲が高まります。従業員の自発的な考えや行動は、事業の成果に結びつきます。従業員が経営に貢献できていると感じることによって、所属企業への愛着や信頼(従業員エンゲージメント)がさらに増す正のスパイラルが起こります。
従業員エンゲージメントの事例(株式会社小松製作所)
建設機械で、日本でのシェア1位、世界で2位の小松製作所は、2012年から従業員エンゲージメント強化に取り組みました。
マネージャ層に対するワークショップ・研修
マネージャ層が気を配るべき次の5つの実践研修を行いました。
信頼
信頼を感じることによって、リスクへ抵抗がなくなり、周りと情報共有、イノベーションを生み出し、ぬるま湯からの打破を行います。
モチベーション
新しい挑戦や成長につながる仕事にやりがいを感じ、一生懸命取り組みます。
変化
企業規模が拡大しても、事業環境の変化にスピードをもって柔軟に対応し、イノベーションをおこします。
チームワーク
オープンなコミュニケーションと連携で、より難しい挑戦に踏み込みます。
権限委譲
従業員を信頼し権限を与えることで、自分の考えが必要とされて、「やらされ仕事」が「自分の仕事」に変わり、仕事に価値を見出すことができるようになります。
小松製作所はマネージメント研修によって、従業員エンゲージメントを半年で33%から70%にし、工場のパフォーマンスを9.4%向上させました。
コマツウェイの共有
小松製作所では永続的に継承すべき価値観を“コマツウェイ”として共有しています。
従業員エンゲージメント強化に取り組んだ2012年度には、国内主要拠点及びグループ会社において、マネジメント層に対する説明会を実施しました。
ビジョンやミッションの的確な伝達が従業員共感の獲得につながり、従業員エンゲージメントが向上したきっかけとなりました。
参照:White Paper: Increasing Employee Engagement at Komatsu
従業員エンゲージメントと組織力強化
働き方の選択肢が多様になる中で、人材を中長期的に育成して、企業の強みの源泉にしていく必要性も増しています。
競争力向上のための組織力強化には、以下の3つのポイントがあります。
従業員エンゲージメントの経営相乗効果
組織を構成する多様な人材が、同じ方向にむかって積み上げていくために、従業員エンゲージメント(忠誠心)と、リーダーシップが相乗効果によって昇華されることです。
従業員エンゲージメントは、経営理念や創業の精神、クレドなどで語られる経営の目的とは共感関係にあります。経営の目的に共感できると従業員エンゲージメントが高まります。
一方では従業員エンゲージメントが、経営の目的に影響を及ぼす相関関係にあります。社員のエンゲージメントのパワーが経営の目的をさらにブラッシュアップさせます。
経営の目的と社員個人の使命や価値観は相乗効果にあります。経営の目的と従業員の使命、価値観が共鳴を起こすときに、経営と従業員が力を合わせて、同じ船に乗って同じ方向に力強く航海できるのです。
経営の目的と従業員の思いの調和がとれ、マネジメントの仕組みがうまく機能すると、適切な人事処遇が行われ従業ん満足度が向上します。
従業員満足度の結果としての社員エンゲージメントは、モチベーション向上につながります。モチベーションが社員の成長につながり顧客満足度が向上します。
顧客満足度が業績につながる仕組みについては、下記投稿もご参考ください。
相互補完
人には得意分野とそうでない部分があります。欠点を補いあって、得意分野をお互いに活用すれば人数以上の組織力が発揮できます。
集中処理による効率化
集中処理による効率化です。一人の人材があらゆることをこなすよりも、標準化されたプロセスを集中的に処理した方が正確で生産性が高くなります。
組織役割分担の中で、生産性向上と組織の目的に密接なのが、集中処理による効率化です。同様の業務は、習熟による集中処理を行うことで、効率的でかつ正確に行えます。集中処理による効率化を追求した組織が機能別組織です。
機能別組織は、規模が大きくなると経営の負担が大きくなる問題点があります。また、スペシャリストは育つが、人事交流が停滞すると、組織の壁ができ部門横断的な経営アクションがとりにくいといった問題点も指摘されています。
この問題点を解決する方法の一つが、目的別の組織です。目的別に組織を柔軟に変更する仕組みです。組織の範囲として、正社員以外の外部パートナーも参画できる形をとることもあります。
問題点としては、求心力が弱まると組織が崩壊するリスクがありますが、このリスクを回避するのが、従業員エンゲージメントと、リーダーシップです。
リーダーシップ・統率力
次に、経営トップと、マネジメントサイドから見た組織力の切り口を見ます。経営の目的と従業員エンゲージメントが調和がとれている場合においては、組織のすべての階層において、リーダーシップが発揮され、組織は活性化しています。リーダーシップについては、下記投稿もご参考ください。
いいかえると、経営トップの重要なミッションは、経営の目的と従業員エンゲージメントを調和させることとなります。そのための方法論は以下の通りです。
経営トップの発信力
法人の代表者である、経営トップは言うまでもなく権限と責任を、法的にも実質的にも担います。業務執行については従業員に任せても、象徴としての役割は経営トップにあります。発言は法人を代表することになります。発信の場面は次の通りです。
経営の目的を、経営理念、創業の精神、クレドといった形にしてをホームページに掲載する、朝礼で唱和する、経営幹部を通じて社員へ伝える、などで浸透をはかります。
そのほか、経営トップとしての年頭のあいさつ、メディアでのインタビュー掲載、近年においてはSNSでの発信も有効な手段となっています。
留意点としては、従業員エンゲージメントとの相関関係への尊重です。経営理念などの文言は時代を経てもそう変わらない普遍的に価値観です。
しかし経営トップとしての発信は、従業員エンゲージメントの影響を受けて時代の変化に対応していくべきです。
内容についても手段ついてもです。従業員がツイッターを積極的に活用しているのであれば、経営トップもそれを意識した運用方法をとるのは、まさに経営トップの発信と組織力強化の相関関係の見本とも言えます。
人事処遇、マネジメントサイクル
人と人は、相性があります。好き嫌いは自然の感情です。ビジネスや組織においては、感情に振り回されることは、不公平感による組織崩壊の原因になりかねません。
採用においては、好悪の感情をすべて否定する必要はありません。ただ優れた経営者や幹部であれば、人に対する受容性があるために、一風変わった人であっても、利点を見出し一緒にやっていく幅広い度量を持っています。
採用後においては、同僚や上司、部下はあわないからと言って排除するわけにはいきません。基準を設けて、公平なる人事処遇を心掛けることが社員エンゲージメントの原動力になります。
基準と公平性を担保するためには、幅広い視点で組織人材を見渡したうえで、面談や観察など被評価者の業務内容や姿勢、業績を深く知る必要があります。
業績評価においても、事業の特性と計画を踏まえなければなりません。このマネジメントの仕組みこそが、重要な組織力強化の要素です。
顧客や社会とのwin-winの関係
組織力の強化の最後の要素が、顧客や社会との関係性です。社員個人の使命(生きる目的)と価値観に照らし合わせて、経営の目的が顧客、社会の貢献にあれば、社員は長期間にわたって、やりがいと生きがいをもって働くことができるはずです。
人はお金のためだけに働く動機があるわけではありません。顧客が喜ぶ顔を見たいという素直な気持ちは誰しもあるはずなのです。
まとめ
従業員エンゲージメントと組織力強化の切り口で、経営の在り方を見てきました。人口構造の先行きから多様性の受容が社会要請となっています。
現代社会において、会社や組織の在り方は変革の時期にあります。正社員である必要性が薄れ、ジョブ単位での働き方も広がりつつある中で、改めて組織としての従業員エンゲージメントと向き合うべきではないでしょうか。
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