エンパワーメントとは、empower(力を与える)の名詞形で、自分を取り巻く環境をコントロールし、成長を促します。社会や組織を構成する一人ひとりが、本来持っている力を発揮し、自発的に行動できるようにします。本投稿ではエンパワーメントの具体例・事例について記載します。
ビジネスにおけるエンパワーメントとは
ビジネスにおけるエンパワーメントは、「権限を委譲する」「自律性を促す」「能力を開花させる」という意味で使われます。
意思決定のスピードアップ
権限や権利を付与することによって、組織の判断のスピードアップがはかれます。権限がなければ、いつまでも上にお伺いをたてなければ物事が進みません。
意思決定を行うということは、責任も生じます。結果の対しての責任感によって、思考力や判断力、情報感度が鍛えられるのです。
人材の育成
いわれた通りにするだけでなく、自らで考え行動する人材の育成には、エンパワーメントは非常に重要です。個々の力を発揮したりリーダーシップの育成には、自分で考え権限の行使する実践が重要です。
経営者、マネジメント育成にとっても重要です。過度に介入せずに任せる度量を培います。権限を委譲しながら、リスク管理を行い最終責任をとる、進歩的なマネジメント手法です。
特に、事業継続において次世代の経営体制を構築するためにエンパワーメントは欠かせません。
組織の成長
一人が見れる範囲には限度があります。ワンマン経営は、組織の継続性や拡大に問題が生じます。目的やビジョンは同じ方向でありながら、組織のセクションがそれぞれ権限と責任をもって自由裁量をもって活動するのが、成長する組織です。
成長する組織については下記投稿もご参考ください。
エンパワーメントの使い方
エンパワーメントの使い方としては、権限付与によって自律型チームにします。
例えばメンバーの業務ローテーションや、勤務時間、受発注の判断を、現場決定できるようにすることによって、柔軟で迅速な対応ができます。
また、意思決定に関与するメンバーの仕事に対する責任感と充実感を得ることにもつながります。
エンパワーメントの使い方の3つのポイントとして、①メンバー間の影響力と発言力を対等に保つ。②チームメンバーの多様性を受容し、活性化する。③チーム目標設定以後の、達成の方法についてはチームの自律性を尊重することがあげられます。
パワーメントの事例・具体例
星野リゾート(エンパワーメント事例・具体例)
国内屈指のリゾートホテルの星野リゾートでは、顧客満足度を少しずつ上げていくことを目標としましたが、どうやって上げていくかについては相談されない限り放置しました。
組織全体が第3の鍵であるセルフマネジメント・チームになっていくことを目指したのです。目の前のお客様には満足してほしいという気持ちを社員たちは元々の性質として持っています。その力を引き出すことこそがエンパワーメントであると考えました。
そうすると仕事が楽しくなってきて、社員の定着率が上がり始めたのです。
参照引用:星野佳路代表が語る「星野リゾートを激変させた1冊の経営書」
星野リゾートの星野佳路社長は、自身の監訳した「社員の力で最高のチームをつくる 1分間エンパワーメント」に多大な影響を受け、「指揮命令的発想」から「支援的発想=エンパワーメント」へと180度の転換を図り、組織改革を行いました。エンパワーメントの実践に必要なことに次の3つ挙げました。
- 全社員と正確な、そして重要な情報を共有すること
- 境界線を明確にして、自律的な働き方を促すこと
- 階層的組織特有の思考をセルフマネジメント・チーム型思考に置き換えること
各施設の総支配人とユニット・ディレクターは、やりたいと思えば誰でも立候補することができ、どの人が役職に相応しいのかを皆で議論して選出するという仕組みがあります。
自らが経営者の意識を持って仕事に取り組むことができる環境が人材の育成や組織力の強化につながっているのです。
スターバックス(エンパワーメント事例・具体例)
米国ワシントン州シアトルで1971年に開業したスターバックスは、90か国に展開し店舗数は32,600店(日本国内は1,655店舗)まで拡大しています。
「Third place](家庭でもなく職場でもない第3の空間)コンセプトのもと、スターバックスを成長させたハワード・シュルツ氏 (1953年~)によると
「私たちの店は事実上、私たちの広告掲示板なのだ。客は店舗に足を踏み入れた瞬間から、スタバブランドの印象を持つ。ブランド構築にとって、私たちが作る雰囲気はコーヒーの質と同じく重要だ」
としています。
スターバックスコーヒーは、雇用形態にかかわらず、従業員を、「パートナー」と呼んでいます。
パートナー一人ひとりがスターバックスコーヒーの価値そのものであり、その成長と共にスターバックスコーヒーの成長があるという考え方です。
接客マニュアルはありません。「お客様が何をしてほしいか考えてサービスしよう」という軸をもって、接客は各自の判断にゆだねられています。
パートナーは自分で考え行動することによって、顧客ニーズの多様性や環境変動に柔軟に対応し、店舗で提供するサービスの向上につとめています。
ザ・リッツ・カールトン(エンパワーメント事例・具体例)
ザ・リッツ・カールトン は、ホテル王とよばれたセザール・リッツ(1850年~1918年)が1898年パリに創業した「ホテル・リッツ」が発祥です。
現在は、マリオット・インターナショナルが世界規模でチェーンを展開しているホテルブランドです。
ザ・リッツ・カールトン のクレド(サービスの基本精神)
リッツ・カールトンはお客様への心のこもったおもてなしと快適さを提供することをもっとも大切な使命とこころえています。私たちは、お客様に心あたたまる、くつろいだ、そして洗練された雰囲気を常にお楽しみいただくために最高のパーソナル・サービスと施設を提供することをお約束します。リッツ・カールトンでお客様が経験されるもの、それは感覚を満たすここちよさ、満ち足りた幸福感そしてお客様が言葉にされない願望やニーズをも先読みしておこたえするサービスの心です。
引用:ザ・リッツ・カールトン ホームページ
ザ・リッツ・カールトン は お客様サービス向上のため、素早く現場で判断できるエンパワーメントを進めています。
- 上司の判断を仰がずに自分の判断で行動できること。
- セクションの壁を超えて仕事を手伝うときは、自分の通常業務を離れること。
- 1日2000ドル(約20万円)までの決裁権(リッツのサービスとしてどうしても必要であれば、20万円を上限として、お客様のために使ってもいいお金)
2000ドルの決裁権があっても、上限まで行使されることは限られています。お客様に最高のパーソナルサービスを提供するために、無駄使いでなく必要であればという認識です。
ザ・リッツ・カールトン の従業員との約束
リッツ・カールトンではお客様へお約束したサービスを提供する上で、紳士・淑女こそがもっとも大切な資源です。 信頼、誠実、尊敬、高潔、決意を原則とし、私たちは、個人と会社のためになるよう持てる才能を育成し、最大限に伸ばします。 多様性を尊重し、充実した生活を深め、個人のこころざしを実現し、リッツ・カールトン・ミスティークを高める…リッツ・カールトンは、このような職場環境をはぐくみます。
引用:ザ・リッツ・カールトン ホームページ
よりよい職場環境や従業員満足度が顧客サービス向上につながるという考えです。
従業員満足度経営については下記投稿もご参考ください。
エンパワーメントの歴史と背景
エンパワーメントは17世紀においては、公的権威、法律的な権限を与えることを指す法律用語として用いられました。
ブラジル生まれの20世紀を代表する教育思想家の一人である、パウロ・フレイレ(1921年~1997年)は、エンパワーメントについて、
「社会的に抑圧されたり、不利な状況に置かれたりしている人や集団に対して、その固有の能力や長所に着目して、本来の強みを引き出し、生活や環境を自らコントロールできるように支援する考え方を促進させるもの」
と定義しました。
1950年代には、公民権運動(黒人解放運動)の運動理念としてエンパワーメントが用いられています。
以降、男女差別をなくそうとするジェンダー、障害者、被差別部落、先住民、定住外国人への差別と偏見を排除する人権運動の中で幅広く用いられています。
現在のエンパワーメントの意味としては、
「①力をつけること。また、女性が力をつけ、連帯して行動することによって自分たちの置かれた不利な状況を変えて意向とする考え方。②権限の委譲。企業において従業員の能力を伸ばすためや、開発援助において被援助国の自立を促進するために行われる」
引用:大辞林
とされています。用途が違えども、本質的な意味としては、「権限や権利を与えることによって、自立を促進し能力開発を行う」と言えます。
根底にあるのは、抑圧、隷属されるよりも、自由な意思の下で能力は発揮され、成長するという人の本質です。
人権運動や、企業の権限委譲は、形を違えども、社会を構成する人々がみな、それぞれの特性にあった能力を伸ばして、よりよい社会を形づくることが共通の目的です。
エンパワーメントの効果を高める使い方
エンパワーメントの効果は、従業員を独り立ちさせてリーダーシップを発揮させることです。従業員が自己決定する力を持てば、管理・監督の工数がへり、人材の合理的な活用ができます。
エンパワーメントの効果を高める使い方としては、部下に責任を与え、進んで責任を部下が引き受ける環境設定が重要です。
リーダーシップについて詳しくは、下記投稿もご参考ください。
エンパワーメントの2つのアプローチ
エンパワーメントの円滑な導入のためには、構造的アプローチと心理的アプローチ双方の面を生かすのが有効です。
構造的アプローチ
「相対的にパワーを持つ者がパワーを持たない者にパワーを与える」ことです。
組織の中で、構造的に権限を持っている階層から、持っていなかった階層へ権限を委譲する仕組みをつくります。
心理的アプローチ
「人間の心に内在するエネルギーや意欲を高めることで、仕事に対するモチベーションを高めようとすること」です。
個人に焦点をあてます。自己効力感を高め、仕事の意義(有意味感)を認識します。
やればできるとモチベーションを高める一方で、行った意思決定に対する影響と結果を振り返ります。
エンパワーメントのリスクと回避方法
権限を付与する際に、結果の責任の所在を明確にしないと、混乱やトラブルの原因にもなります。
責任感が人材育成のかなめであり、権限と責任は切り離すべきではありません。
企業組織の場合、経営者、管理職、従業委員の権限と責任の範囲を明確化します。
共同の意思決定の場合は、責任は一人一人に帰することを認識する必要があります。
逆にいうと、過大な責任を現場や一人の従業員に押し付けるべきではありません。
上司は、権限を委譲しても監督責任は負うことになります。
まとめ
企業を継続発展させるために、従業員の成長が欠かせません。エンパワーメントは人材教育の一つのかなめなのです
新型コロナの影響からリモートワークなどのライフスタイルの変化が起きています。
企業活動においてはビジネスモデルの変革や、エンパワーメントによって個性の力の発揮と迅速な意思決定行うことが、組織にとって命題となる時代です。
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