ソーシャルマーケティングとは 事例、社会志向とブランド向上

ソーシャルマーケティングは、社会的な問題解決をマーケティングに取り入れた方法論です。ソーシャルマーケティングの事例を通じて、社会的活動がブランド向上と業績へ貢献するプロセスを見ます。従来のマーケティングは顧客志向のビジネスプロセスです。ソーシャルマーケティングは概念を社会志向まで広げています。

ソーシャルマーケティングとは

ソーシャルマーケティングの歴史

ソーシャルマーケティングは、1965年アメリカの社会活動家・弁護士のラルフ・ネーダーが欠陥自動車を告発したことによって始まったコンシューマリズム(消費者主義)が発端であるといわれています。

当時は環境問題に対する意識が低く、公害を引き起こす場合がありました。欠陥や有害商品を販売する企業に対して、消費者が権利を主張する運動です。組織は顧客のみならず、社会全体を考えるべきであるという機運が高まりました。

1971年、アメリカの経済学者フィリップ・コトラーによって「ソーシャル・マーケティングとは、社会的なアイディアの受容性(需要)に影響を及ぼすと意図され、そして製品計画、価格決定、コミュニケーション、流通、およびマーケティング・リサーチの考察に関するプログラムの設計、実行、そして統制である。」と定義されています。

ソーシャルマーケティングの2つの流れ

一つ目は「非営利組織のマーケティン」です。行政機関(中央政府や自治体)学校、病院、NGO(国際連合と連携を行う民間組織)などにマーケティングの発想を取り入れて、社会改革を行います。

二つ目は、「社会志向のマーケティング」です。営利企業であっても、自社の利益だけを考えず、社会全体の利益や福祉を意識して活動する考え方です。

ソーシャルマーケティング(社会志向)の概念
ソーシャルマーケティング(社会志向)の概念

ソーシャルマーケティングは、市場のニーズのとどまらず、社会課題の解決をスコープにいれます。

研究開発は3R(①reuse:資源の廃棄物の発生を少ない製品設計をおこなう)  ②reduce:製品や部品を繰り返し利用する ③ recycle:廃棄物等を原材料やエネルギー源として再利用)に考慮した製品設計をおこないます。

商品提供、アフターフォローにおいては、グリーン調達(環境に配慮)、環境保全(化学物質管理、CO2排出量削減)に取り組みます。

ソーシャルマーケティングは、昨今のCSR(社会的責任経営)、SDGs経営にも通じます。営利団体であっても、社会に融和し、貢献する姿勢が不可欠となっています。持続可能な国際社会における持続可能な組織にあり方です。

SDGs経営については以下の投稿もご参考ください。

ソーシャルマーケティングのメリット・効果

ソーシャルマーケティングを通じて、営利のみを追求するだけでない組織の姿勢をステークホルダー(利害関係者:顧客、従業員、株主、地域社会)に周知させることができます。

従業員にとっては、自らの業務が社会貢献につながる意識によって、働く意欲を増進することになります。結果として従業員エンゲージメントが向上します。

従業員エンゲージメントについては、下記投稿もご参考ください。

地域社会、顧客にとっては、組織へのイメージ向上につながり、より組織を受け入れ支援する土壌となります。

現代は、様々な商品やサービスであふれています。ソーシャルマーケティングに取り組んでいる企業の製品は、消費者から選んでもらう要素となりえます。

また、以前アメリカで暴動がおこったときに、社会貢献活動に熱心で地域社会に支持されていたファーストフード店が被害にあわなかったことがありました。ソーシャルマーケティングは、リスクマネジメントにも資する活動でもあると言えるでしょう。

株主にとっては、企業価値の評価指標となります。ESG:環境(Environment)、社会(Social)、ガバナンス(Governance)への融資(ESG投融資)が増加しており、ソーシャルマーケティングは資金調達においても有利に働きます。

社会に受け入れられ支持されることが、事業継続の重要な要素となっています。

ソーシャルマーケティングの注意点

ソーシャルマーケティングは、企業のブランド価値をあげることにつながるものの、個別の商品・サービスの直接成果が目につきにくいことが注意点としてあげられます。また、全社的な取り組みが必要であるために、経営トップの意思が不可欠であり、ボトムアップでは、難しいといえます。

ソーシャルマーケティングは、企業活動において、広範囲に解釈できます。取り組むべき範囲と、手順については実施計画と社内のコンセンサスをたてて行なう必要があります。

ソーシャルマーケティングとCSR(社会的責任経営)との違い

CSR(corporate social responsibility)とは、社会的責任経営と訳され、企業が活動を行う上での社会的責任のことです。社会的責任は、従業員、顧客、消費者、投資家、環境、地域社会など幅広い影響範囲に対して適切な活動を行う責任です。

ソーシャルマーケティングはCSRの概念を内包しているといえますが、認知、発信、浸透、ブランディングに重点があるところが違いです。

ソーシャルマーケティングの事例

ソーシャルマーケティングの事例 サントリー株式会社

「サントリー天然水」

サントリーグループはコーポレートメッセージである「水と生きるSUNTORY」のもと、水に関する様々な独自の研究、活動を行っています。

 自然界の水から体を巡る水まで、水に関する総合的な研究と知見の普及を進めているサントリー水科学研究所や、大学などの専門機関と連携して全国19箇所、9000ヘクタール規模での水を育む森づくりのための「天然水の森」活動、さらには自然の大切さを新しい世代へとつなぐ次世代環境教育「水育(みずいく)」など、未来にも目を向けた活動も行っています。

従来の「ヒートポンプ式自動販売機」に比べて、消費電力量を約30%カットできる、消費電力国内最小の「新型ハイブリッドヒートポンプ式自動販売機」を導入しました。その一部にサントリー自動販売機ビジネスにおける省エネ活動のシンボルキャラクター「エコトリ」をデザインし、省エネをアピールしています。

容器に関しても、「サントリー天然水」(550ml)において国産最軽量※3の、植物由来原料を30%使用したキャップの他、ボトル、ラベルにおいても環境に配慮したパッケージを採用するなど、環境負荷低減活動にも取り組んでいます。

引用参照:サントリー株式会社 ホームページ

サントリーの事例でみる通り、ソーシャルマーケティングは社会貢献志向の企業活動を、周知させていくプロセスが重要です。

「サントリー天然水」ブランド販売量は1991発売以来右肩あがりです。2016年には年間販売数量が一億ケース、ミネラルウォーター市場21年連続一位を達成しています。

緑と自然

ソーシャルマーケティングの事例 アメリカン・エキスプレス

アメリカン・エキスプレスは、1億1400万枚を超えるカードを発行し約130か国で事業を展開しているカード会社です。

1983年に同社で行われた「自由の女神修復キャンペーン」は、同社の飛躍のきっかけとなりソーシャルマーケティングの先駆けとなりました。

アメリカンエキスプレスのカードを利用すると、一回につき1セントが修復費として寄付されました。自由の女神への関心が高かったため、対前年度比においてカード新規申し込み45%増、決済額は28%増加しました。

ソーシャルマーケティングの事例 キリンホールディングス株式会社

キリンは、CSV(Creating Shared Value: 共通価値の創造 )を掲げています。

CSV(共通価値の創造)は2011年、ハーバード大学教授マイケルポーター氏とマーク R. クラマー氏によって提唱されました。

企業が、社会的ニーズや社会問題の解決に取り組み、社会的・経済的価値を創出し次なる成長の推進力にします。

CSV(共通価値の創造)はソーシャルマーケティングと共通する範囲が多い概念です。

キリンはCSVの一環として、様々な東日本大震災の被災地域の支援を行ってきました。(キリン絆プロジェクト)

その先駆けとしては、 2013年には国より厳しい放射性物質の自主規制値をもとに、福島県内の農家が生産した梨を使用した、「キリン 氷結和梨(期間限定)」を発売し、22万ケースが1ヶ月で完売するなど大きな反響を呼びました。

以降、 「キリン 氷結福島産桃<限定出荷>」 、 福島産の果実だけを使用した「氷結ふくしまポンチ」 と発売し、福島産の果実を使用することで、福島の農業を応援し、フルーツ王国福島の魅力を全国のお客様にお伝えしています。

参照: キリンホールディングス株式会社ホームページ

地球にやさしく

ソーシャルマーケティングの事例 ベネッセホールディングス株式会社

ベネッセホールディングスは企業理念「Benesse =よく生きる」のもと、持続的(サスティナブル)な成長を実現し、人々の豊かな生活を支えることを掲げています。

持続的(サスティナブル)は、「持続可能な社会」です。地球環境を壊さず、資源を浪費せず、未来の世代も美しい地球で平和に豊かに、ずっと生活をし続けていける社会を目指します。

ベネッセホールディングスの掲げる、サステナビリティビジョン「よく生きるを社会へ・よく生きるを未来へ」は、変わることが常態であるこれからの時代に、持続可能な豊かな世界を目指し、ソーシャルマーケティングの概念と相いれます。

ベネッセホール手ディングスはサスティナビリティビジョンの元、①人生にすべての学びを②超高齢化社会に向けて③知見の社会還元④地域との価値共創⑤健やかな社会の実現をめざし、活動をしています。教育・介護・シニア・障がい者雇用支援・環境(全工程でECO活動)・地域社会へとビジネスを展開しています。

参照:ベネッセホールディングス株式会社 ホームページ

ソーシャルマーケティングの事例 トヨタ株式会社

トヨタ株式会社は、「幸せを量産する」をミッションに掲げて、地域の皆様から愛され頼りにされる、その町いちばんの会社を目指しています。「サステナビリティ基本方針」、「トヨタフィロソフィー」を定め、経営トップ(豊田章夫社長)がSDGsに本気で取り組むことを表明しています。

トヨタ株式会社は、2015年に「トヨタ環境チャレンジ2050」を発表しました。

地球環境問題(気候変動・水不足・資源枯渇・生物多様性の損失)に対し、車のマイナス要素を限りなくゼロに近づけ、社会にプラスをもたらすことを目指し、6つのチャレンジを掲げています。

  • ライフサイクルCO₂ゼロチャレン
  • 新車CO₂ゼロチャレンジ
  • 工場CO₂ゼロチャレンジ
  • 水環境インパクト最小化チャレンジ
  • 循環型社会・システム構築チャレンジ
  • 人と自然が共生する未来づくりへのチャレンジ

それぞれ2030年マイルストーンを設け、2050年達成を目指しています。

参照:トヨタ株式会社 ホームページ

トヨタグループは、2020年に世界で952万8438台を販売し、5年振りに世界販売台数1位に返り咲きました。

ソーシャルマーケティングの事例 株式会社ユニクロ

服を楽しむには、毎日安心して過ごせる社会の存在が欠かせません。ユニクロは世界中のコミュニティと連携しながら、地域社会の平和と安定に貢献する活動に取り組んでいます。

貧困・難民問題、人種差別、テロ、地域紛争。世界はいま、多くの社会課題に直面しています。これらの課題に取り組むために、ユニクロは国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)とのグローバルパートナーシップを結んで、世界各地で活動を展開しています。

未来を担う子どもたちのために、服を通じて貢献できることがある。子どもが自らの可能性を発見するための教育プログラムや、難病を抱える子どもや家族の支援をはじめ、次世代をサポートするための活動を推進しています。

スポーツや芸術は、私たちに無限の刺激や活力を与えてくれます。ユニクロは、各地のスポーツ団体や美術館などとのパートナーシップを通じて、地域の子どもたちが健やかに成長し、服やファッションを楽しむための感性を育むことを応援しています。

世界の新興国は、たくましい経済発展をとげる一方、貧困や経済格差といった社会問題に悩まされています。ユニクロは、バングラデシュでオリジナルブランド「Grameen UNIQLO」を展開し、現地の人たちが安全で安心して働ける環境を創造し、地域の繊維産業の発展に貢献するとともに、貧困層や社会的弱者の支援につながる活動を展開していきます。

緊急災害時に、ユニクロは全国の店舗ネットワークを活かして衣料品や寄付金による支援を行っています。東日本大震災の際は33億円相当の支援を実施。翌年には「復興応援プロジェクト」を立ち上げ、NGOへの支援や被災地域への出店も行いました。その他にも、アメリカのハリケーンサンディー(2012年)、中国の四川地震やフィリピンの台風ハイヤン(2013年)、台湾東部地震(2018年)など、世界各国で緊急災害支援を行っています。

参照:ユニクロ ホームページ

ユニクロの2022年8月期は、前年の約1.6倍の2733億円と最高益を2年連続で更新しました。

美しい世界

ソーシャルマーケティングの今後

だれ一人取り残さない持続可能な世界を目指すSDGsの目標の中、企業と社会、地球環境の融和は、重要な経営課題です。

消費者の意識も、ソーシャルマーケティングに取り組む企業への評価が高まりつつあります。

今後ソーシャルマーケティングや同様のコンセプトの取り組みは、ますます広がることが予想されます。

まとめ

事例で見る通り、ソーシャルマーケティングは、ブランド力向上に大きなプラスとなります。

ブランド力は利益などの業績を上げる重要な要素です。

得た利益を社会に還元することで、正のスパイラルが生まれます。

ソーシャルマーケティングの業績貢献(筆者作成)

ITの発展によって、リアルタイムにユーザー情報が世界に拡散されます。ユーザーは社会の一員です。

社会に受け入れられ支持されることが、組織の永続発展には不可欠な時代になりました。

情報化社会が発展する今後、ますますソーシャルマーケティングは重要となります。

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