リスクマネジメントとは・事例・研修・プロセス

営業 事業企画

リスクマネジメントとは、リスクの経営に及ぼす影響を管理(マネジメント)し、事前に対策を講じることで損失の回避・低減を行う経営管理の仕組みを言います。本投稿では、リスクマネジメントの事例や研修、進め方のプロセス、研修について記載します。

ビジネスにおけるリスクマネジメント

経営におけるリスクの定義は、国際標準化機構(ISO)による国際的なガイドラインによる「目的に対する不確実性の影響」が一般的です。

組織が組織である3要件の一つである「目的」を達成できるかどうかの不確実性の影響(リスク)は、組織の内部と外部にもあります

事前の調査・分析により影響を予測し、分類することで、リスク低減、回避、時にはリスクテイクすることが、リスクマネジメントです。

リスクマネジメントの必要性

現代はVUCA時代といわれ、変動性が高く、複雑あいまいさを含んだ社会情勢です。

インタネットやスマートフォンの普及により、情報の拡散のスピードが増しています。リスクが発生したときに責任と意思決定者を明確にし、スピーディに決定・対処できる体制が求められています。

予測が難しい未来の変化に、素早く対応していくリスクマネジメント体制を構築することが、事業継続により重要になってきました。

リスクアセスメント、リスクヘッジ、クライシスマネジメントとの違い

リスクマネジメントの関連用語に「リスクアセスメント」「リスクヘッジ」「クライシスマネジメント」があります。意味は以下の通りです。

リスクアセスメント

リスクアセスメントとは、事業における危険性や有害性の特定、リスクの見積り、優先度の設定、リスク低減措置の決定の一連のプロセスをいいます。

リスクヘッジ

リスクヘッジとは、リスクを予測して、リスク対応できるよう対策することをいいます。

クライシスマネジメント

重大事故・危機(クライシス)は必ず発生するものという前提にもとづき、初期対応や二次被害の回避を行うことことです。

リスクマネジメントのプロセス

リスクマネジメントのプロセスは一般的には以下の通りです。

リスクの発見と特定

リスクを発見(特定)、リストアップします。主に以下の3つの方法があります。

ディスカッションの形式(ブレーンストーミング法)

創造性開発のための、会議形式の技法です。あるテーマをめぐって、既成概念にとらわれず、自由奔放にアイデアを出し合います。通常、5~10名のグループで実施します。

デルファイ法

企業のリスクについて、各部門に回答してもらいます。得られた結果を、フィードバックして各部門の他の方の意見を同じテーマについて回答してもらいます。これを繰り返すことによって、組織的に収束した見解を得ることを目指しています。

チェックリスト分析

過去の事例や実績などに基づいて、今の事業に当てはまるリスクをチェックリストで確認していく方法です。

リスクの評価

リスクを評価するために、各リスクの重大度、影響度や危険度などの定性的分析を行う、発生確率・影響度マトリックス(PIマトリックス)を作成します。

リストアップしたリスクに「影響度」と「発生頻度」などを大小を数値化します。優先順位をつけるPIマトリックスでリスク評価を行います。その結果によって、リスクに対してどのように対応するかを決定していきます。

PIマトリックス
PIマトリックス

リスク対策の選択・実施

リスクの優先順位が設定できたら、高いと評価された順にどのように対策するかを考えます。対応策は下記のとおりです。

回避

リスクに対して、事前に対策を行い発生確率を低くします。ISO31000:2009の拡充:リスクを生じさせる活動を開始または、継続させないと決定することによってリスクを回避します。

例:ノートパソコンの紛失、盗難による情報漏えいリスクに備え、パスワードや暗号化によって情報を保護します。

低減

リスクが発生したときの影響を少なくします。ISO31000:2009の拡充:「適正化」①リスクの源を除去する②起こりやすさを変える③結果を変える④ある機会を追求するためにリスクをとるとされています。

例:交通事故リスクに備え、全座席でシートベルトの着用を心がけます。

移転

リスクの影響を他に移します。ISO31000:2009の拡充:「共有」契約、保険などでリスクを他者と共有します。

例:損害保険で、火災事故の損失を補填します。

受容

リスクを受け入れます。ISO31000:2009の拡充:「保有」情報に基づいた意思決定によって、リスクを保有します。

例:副反応のリスクを受容して、新型コロナワクチンを接種します。

リスクコントロールとは、損失の発生頻度と大きさを削減する方法です。

リスクコントロールによって、損失の発生防止と発生した損失の最小化をはかります。リスクを伴う活動を中止や、リスクの発生源を分離・分散させたりすることを検討します。

リスクファイナンシングは、自然災害や事故などの大きな損害があった場合に、資金繰りを補てんするために金銭的な手当てをする方法です。次の2つがあります。

  • 移転:保険等で第三者に金銭的なリスクを移転します。(他者に負担させる)
  • 保有:資金の積み立て等を行い、損失を自己負担します。

残存リスクの評価

対策を打たれたリスク後に残るリスクの大きさを評価します。対策されたリスクと残存リスクを評価することによって、対策の効果を測定します。

モニタリング及び改善

リスクマネジメントもマネジメントサイクルが大事です。目的が達成できているのかを継続的に検証し、改善することが重要です。

定期的にモニタリングと評価を実施してレベルを上げていきます。レベルアップによって、攻めのリスクマネジメントの道が開けます。

リスクや脅威は競合他社にも同じように起こりえます。正しくリスクに対処すること自体が、差別化や強みにすることができるのです。

リスクマネジメントはホワイト企業認定(企業のホワイト化を総合的に評価する、国内唯一の認定制度)の審査においても設問内容に追加されています。

リスクマネジメントの事例

株式会社カネキ吉田商店(リスクマネジメントの事例)

水産加工業者である、同社は、東日本大震災直後に原料調達・代替生産拠点を確保し、事業継続を実現しました。

2010 年のチリ地震の際の津波警報をきっかけに避難訓練・研修を年 2 回実施していました。所在地近辺で地震が頻発していたことから、従業員に対して朝礼や館内放送で、就業中や帰宅時、家庭での避難対応について周知を行うようにしてました。東日本大震災が発生した際に、従業員はすぐに避難することができました。

本社と同じ町内に所在していた工場・蓄養場 4 拠点は津波により被災し、生産ができなくなってしまいましたので、大震災前から委託加工での取引があった青森県八戸市の事業者が空いている工場を保有し、補修すれば 2 週間程度で使用可能になるという話であったため、補修及び借用を決定しました。販売先に対しては、生産開始の見込みがついた 時点で連絡をして、まずは東北・関東エリアの顧客に対して発送を開始しました。

参照:2016 White Paper on Small and Medium Enterprises in Japan

カゴメ株式会社(リスクマネジメントの事例)

カゴメ株式会社では、2011年の東日本大震災によって被害を受けました。また、お客さまの健康な食生活を支えるライフライン企業として事業継続に向けたマネジメント体制の強化の必要性を痛感することになりました。

2012年に「カゴメグループ災害対策基本行動計画」の制定と運用を実施しました。

2017年には、災害対策本部を設置するまでの「BCP初動基準」を制定し、各事業所での防災訓練や安否確認訓練を行っています。

対応方針として食の安全を中核として、様々なリスクに対する低減活動の取り組みを進めています。

リスク管理の統括機関として、代表取締役を議長とする「総合リスク対策会議」を設置し、全社的なリスクマネジメント体制をとっています。

参照:カゴメ株式会社 ホームページ

積水化学グループ(リスクマネジメントの事例)

積水化学グループではESG経営:「Environment(環境)」「Social(社会)」「Governance(企業統治)」の要素を考慮した経営を掲げています。

ERG経営におけるリスクマネジメントとして、以下のERGリスクを洗い出し対策しています。

積水化学グループの主なESGリスク

・環境リスク 「土壌・大気汚染/有害物質の漏えい/環境規制の強化等」
・社会性リスク 「地域社会との関係悪化/風評被害/伝染病の蔓延/公共機関の機能停止等」
・法務リスク 「不正・犯罪行為/独禁法違反・不正取引/情報の改ざん/ハラスメント行為/  贈収賄/法律・制度の急激な変化/知的財産権の侵害等」
・品質リスク 」「製造物責任/製品の回収・リコール/施工ミス等」
・人事・労務リスク 「法令違反労務/差別/社員構成の変化等」
・安全リスク「 社員の安全衛生/労災事故/海外駐在・出張者の安全等」
・財務リスク 「財務・経理・税務に関する諸リスク」
・情報管理リスク 「情報の漏えい/電子データの破壊・消滅等」
・経営判断・業務設計リスク「ビジョン・経営方針の不明確/業務プロセスの不備/製品事故等
・関係会社・取引先リスク 関係会社の不祥事/関係会社の被災・事故等」

リスクマネジメント研修

研修内容・特徴

リスクを未然に防止にするためには、リスクマネジメントを多角的に考えられるようになる必要があります。

リスクマネジメント研修では、リスクマネジメント研修生の業界やレベルに応じて、事例やワークショップを設計し、リスクの洗い出し、対策の優先順位を評価します。

リスクが発生したときの取り組みや、組織全体での取り組みについての考察し、自社に帰った後にも活用できる研修です。

リスクマネジメント研修の達成目標

  • リスクの洗い出しの方法を習得し、自社の職場に適用しリスクを洗い出します。
  • リスクの予防策、対処方法を具体的に習得し活用します。
  • リスクマネジメントとコンプライアンスの意識を高めます。

無料の相談

受講生の業界や職場の属性、立場に応じて柔軟に研修を設計します。相談は無料です。詳しくは気軽にお問い合わせください。

合同会社顧客志向
合同会社顧客志向 (法人番号4130003007546)

将来の想定されるリスク

企業も人も、無防備でいるときと、備えがあるときでは、不測の事態にあった時の影響度が大きく異なります。また、守りだけではなく将来に起こりえる事態を予測することによって、現在の選択をよりよい未来につなげるプラスのリスクマネジメントがあります。

リスクリストと対処例 筆者作成

地震

日本は、世界のマグニチュード6.0以上の地震の約2割が起こっているとされる地震多発国です(内閣府)。日本全域(九州から北海道にかけて)に、地震の原因になる約2000もの活断層があります。
地下に隠れていて、まだ見つかっていない活断層もあるとされいます。日本は、下記の図のように大規模な地震が発生する可能性が高いといわれている地域だけでなく、どこで、いつ大きな地震が起きてもおかしくない国なのです。

出典 内閣府 防災のページ

東日本大震災

2011年3月11日14時46分頃に三陸沖の宮城県牡鹿半島の東南東130km付近で発生した、東日本大震災は、マグニチュード(M)は9.0でした。日本国内観測史上最大規模、世界でも4番目の規模の地震でした。

被害概要

12都道県で2万2000人余の死者(震災関連死を含む)・行方不明者が発生しました。明治以降の日本の地震被害としては関東大震災、明治三陸地震に次ぐ規模となりました。

社会変動と未来

東日本大震災時の福島第一原子力発電所におけるメルトダウン発生は、日本のエネルギー政策の転換点になりました。圧倒的な力があった東京電力の在り方が見直されました。電力事業の規制緩和により新電力会社が誕生しました。太陽光発電、風力発電、地熱発電などの再生可能エネルギー産業の勃興の一因となっています。

民間においては防災意識の高まりの呼び水になりました。水や備蓄食料、防災用品など開発、需要を生み出すことになりました。また、水素エネルギー開発、自家消費型太陽光発電、蓄電池産業の発展につながっています。

人類の脅威

イギリス教育情報誌「Time Higher Education」は2017年8月31日付で、ノーベル賞受賞者50人に「人類最大の脅威」を聞いた結果を報じています。ベスト3は以下の通りです。

1位(18人) 人口増加、環境問題

国際連合「世界人口予測 ・2019年版 」によると、世界人口は2019年の77憶人から、2030年に85憶人(10%増)、2050年には97憶人(26%)、2100年には109憶人(42%)に達すると予測されています。

また、気候変動により水害など深刻な自然災害が引き起こされる恐れを指摘されています。「氷河期以来、人類は劇的な気候変動に大忙しです。しかし、科学には化石燃料に経済的に依存したシステムを変えるポテンシャルがあります。言い方を変えれば、再生可能エネルギーが化石燃料より安くなれば、人々はすぐに化石燃料を放棄するということです」(2006年ノーベル物理学賞受賞者ジョン・C・マザー博士)

地球温暖化の影響を緩和するために2015年パリ協定が取り決められました。今世紀後半に世界全体の温室効果ガス排出量を実質的にゼロにすること、つまり「脱炭素化」を目指しています。対策に必要な資金・技術などの支援を強化する仕組みを持つ包括的な国際協定です。

環境問題が国際協調の引き金になったのです。また、人口増加は国際的な農業の生産性向上の取り組み、省エネルギーの取り組みを加速させ、周辺産業は活況を呈しています。リスクはチャンスでもあるわけです。

2位(12人) 核戦争

アメリカ、ロシア、中国などの核保有大国同士の戦争は、人類滅亡に直結しています。核保有大国同士もそれは理解しています。各地の紛争は、大国の代理戦争である側面もありました。いいかえると核の脅威が大国同士の直接戦争の抑止にもなっているのです。

核兵器の開発技術が、汎用的になるに従い、北朝鮮や中東などの統治が不安定な地域における核使用のリスクは高まっています。一方において、2021年1月22日に発効予定の核兵器禁止条約などの核兵器廃絶の国際的な動きは進んでいます。

核兵器の脅威は、人類に平和と協調を引き出している側面もあります。核戦争の脅威は、人類に未来に残る価値を問いかけています。

3位(4人) 感染病、ウィズコロナ、薬物耐性

古くは、14世紀に大流行したペスト(黒死病)です、ヨーロッパの人口の人口がおよそ3分の1から半分程度も減少したと言われています。

ノーベル賞受賞者50人に「人類最大の脅威」を聞いた結果は2017年に行われました。その後、予言だったように、2019年に中国武漢で発生した新型コロナウィルスの流行で発現しました。(ウィズコロナ時代の到来)詳しくは下記投稿をご参考ください。

BCP(事業継続計画)

BCP(Business Continuity Plan )事業継続計画は、災害、戦争、システム障害など外的な危機状況におかれたときに、重要な業務を継続できるように事前に計画をたてておくことです。リスクマネジメントは、一般的には、BCPを内包しているといわれ、外的脅威のみならず、内部的なリスクも管理している手法です。

まとめ

本稿では、リスクマネジメント全般についてみてきました。個人も法人も未来を予測して備えることが大事です。よいシナリオと悪いシナリオ双方考えるべきです。悪いシナリオであっても、必ず一方では機会があるはずです。機会に備えるのも攻めのリスクマネジメントです。

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