サプライチェーンマネジメント(SCM)とは、「供給連鎖」と訳され、原材料の調達から消費者への販売までの生産・流通プロセスです。製品・サービスに関連する原材料、部品、在庫などのデータ、お金の流れを管理する仕組みです。本投稿では、サプライチェーンの活用と事例について記載します。
サプライチェーンマネジメント(SCM)とは
サプライチェーンは、①原材料・部品調達 → ②生産 → ③流通・物流 → 販売」という一連のプロセスの連鎖です。供給関係者(サプライヤー、メーカー、卸売、倉庫、物流・ロジステック、小売り物流業者、小売業者)でモノと情報の流れを共有し、最適化をはかります。
サプライチェーンマネジメントが注目される理由
技術革新と需要予測
IoT(モノのインターネット)、超分散コンピューティングと世界のさまざまな情報が即時に共有され、活用できるインフラが整備されてきています。また、収集したビックデータをAI(人工知能)によって、高速かつ自律的に分析し、需要予測できるようになりました。各業務プロセスは、自動化され人はより付加価値の高い業務にシフトする中で、柔軟なサプライチェーンの再構築の必然性を高まっています。
グローバル経済
現代において情報と物流のグローバル化が進む中で、世界規模で経済のネットワークが広がりつつあります。世界最適調達が競争力優位のために重要となってきました。調達、生産、物流、販売のプロセスにおいて、情報の一元管理と全体最適の実現を狙いとしたサプライチェーンマネジメントが改めて注目されています。
ビジネスモデルの変革
科学・情報技術の発展により、店舗対面販売から、料理の配達「UberEATS」、ECサイト、仮想空間(メタバース)へと販売チャネルと提供手段は多様化しています。、既存の商流にとらわれない生産から販売までの一体化モデルが成長している中で、サプライチェーンマネジメントの見直しや変革の必要性が増しています。
少子高齢化と労働問題
少子高齢化・生産人口(15~64歳)の人口の減少が進み、人材確保難が各業界で起きています。働き方改革による多様性への受容と、各プロセスの省力化、自動化が求められています。特に物流においては、配達人材の不足が深刻なため、配送のタイミングと量の最適化による効率化が重要です。需要と生産をつなぐサプライチェーンマネジメントが課題解決のフレームとして注目されています。
サプライチェーンマネジメントの歴史・経緯
サプライチェーンマネジメントの概念が登場する以前から、供給連鎖の最適化の取組は行われてきました。1910年代、フォードが自動車会社において開発した、半自動の移動組み立てラインを中心とするフォード・システムは、テーラーの科学的管理を自動車の生産に適用し、作業や部品の標準化を行い大量生産を実現しました。
サプライチェーンマネジメントの言葉は、ブース・アレン・ハミルトンのK.R.オリバーとM.D.ウェバーが、1982年に初めて用いたとされます。基本理念は以下の2つです。①サプライチェーンを全体最適で管理しボトルネックを解消し、在庫量・アイドルタイムを縮減します②さらに顧客の信頼確保、経営全体の効率化をめざします。
インターネットの普及、ITなど技術革新は、グローバル経済を発展させました。ユーザーの望む商品・サービスを、リアルタイムで、様々な方法で提供できるサプライチェーンの構築が、グローバル競争優位のために不可欠な時代です。
サプライチェーンマネジメントと類似用語
サプライチェーンマネジメントとバリューチェーン分析の違い
サプライチェーンは供給連鎖、バリューチェーンは価値連鎖と訳されます。サプライチェーンは、商品、サービスがどのように供給されているかのモデルであり、バリューチェーンは、どのような価値が創造されているかに着目されている点が異なっています。
バリューチェーン分析については、下記投稿もご参考ください。
サプライチェーンマネジメントとロジスティックの違い
サプライチェーンマネジメントは、原材料調達、生産、卸売業、物流、小売りと一連の流れですが、ロジスティック(物流・輸送)はサプライチェーンマネジメントの一部です。サプライチェーンマネジメントは、ハード面、情報処理などのソフト面を包括しています。また、グローバル供給管理や多国籍間における生産プロセスなどにも拡張することができます。
サプライチェーンマネジメントのメリット・デメリット
サプライチェーンマネジメントのメリット
最適在庫の実現
在庫は現金でない資産であり、キャッシュフロー(資金繰り)を圧迫する要素です。また保管費用発生したり、商品劣化による資産価値低下や不良在庫の原因ともなります。しかし、在庫が不足すると販売機会ロスが発生します。また、顧客への提供リードタイムがのびるため顧客満足度の低下の原因となります。過剰でも、不足でもない適切な在庫管理は、重要な経営課題です。サプライチェーンマネジメントによって、各プロセスの情報共有ができ、需要予測から供給計画をたて、最適在庫が実現可能となります。
商品・サービス提供リードタイムの短縮と業績向上
需要予測の精度向上と各プロセスの情報共有化によって、サプライチェーン全体が連携とれ、商品提供のリードタイムが短縮し、顧客満足度の向上につながります。また、商品・サービス提供のスピードアップは売上増及び、人材・設備の稼働率及び回転率の改善につながり、業績が向上します。
グローバル基準の適用
サプライチェーンマネジメントを世界最適調達及びグローバル販売網まで拡張することによって、世界標準の業務プロセス及びルールの適用が可能となります。グローバルにおける業務とルールの標準化は、サプライチェーン全体の効率向上につながります。
新たなビジネスモデルの創出機会
サプライチェーンマネジメントを再構築することによって、あらたな顧客提供価値が生み出される可能性があります。①顧客体験を重視しした提供方法②最適調達による品質向上とコストダウン③需要予測と顧客情報収集による新商品開発などです。
サプライチェーンマネジメントのデメリット・課題
中小企業をはじめとして取引先数は増加する傾向(取引構造のメッシュ化)にあり、特定の取引先に売上のほとんどを依存する企業の割合は低下し、取引先を広く求める企業関係へと変化が生じているため、サプライチェーンマネジメントの構造の複雑化を原因になっています。
商流のグローバル化と多様化が進む中、サプライチェーンマネジメントの最大の障壁は、多段階プロセスにわたり、各プロセスにおけるプレイヤーの調整に労力がかかることです。また情報を管理共有化するための共通のプラットフォームの構築費用が発生し、新たな業務プロセスへの変革が伴います。
サプライチェーンマネジメントを実現するためには、主導権を握る母体があって権限をもって行うか、もしくはサプライチェーンマネジメントのグランドデザイン(基本構想)を描き、各プロセスのプレイヤーが目的とメリットを共有化する必要があります。
サプライチェーンマネジメントの事例
東レ×ユニクロ(サプライチェーン分析の企業事例)
デジタル化によるサプライチェーン変革と販売市場の拡大に合わせた生産拠点の多様化、日常生活にも使えるスポーツウエアなど新商品の開発で、「高機能素材でイノベーションを起こし、社会を変えていく、先端材料の世界トップ企業」を目指す東レグループと「世界中のお客様に快適に着ていただける”LifeWear”と”MADE FOR ALL”を追求する」ユニクロは、戦略パートナーシップによるサプライチェーンを構築しています。
東レ×ユニクロはサプライチェーンマネジメントによって「グローバル化とデジタル化の進展で今後のビジネスは時間と距離を超え、世界中の消費者の皆様に今までにない新しい価値のある商品を提供してまいります。」としています。
ZERA(サプライチェーンマネジメントの事例)
ZARAは、インディテックス(本社スペインのアパレル メーカー)が、全世界に2,040を超える店舗を展開展開するスペインのファッションチェーンです。
ZARAは、設計、生地の裁断、プレス処理、検品等は自社で行い、縫製は外注、流行商品の製造は、スペインやポルトガルで、定番商品の製造はアジアで行っています。
ZARAは、少人数のチームで企画、顧客を基準にしたデザイン開発を行い、製造・販売までを自社で担い、卸売業者を介さないことで、コストダウンや在庫管理の円滑化、消費者ニーズへの素早い対応(発注から納品:EU内24時間以内、アメリカ48時間以内、日本78時間以内)を可能にしました。
花王株式会社(サプライチェーンマネジメントの事例)
花王は、原材料の調達、生産、物流、販売にいたるプロセスを統合管理するサプライチェーンマネジメントに取り組んでいます。市場の需要に応じて、商品を無駄なく速やかに供給する仕組みを構築しています。小売店からの発注に応じて、卸店を通さずに、全国8万店に商品を直接届けています。全国8工場(川崎・和歌山等)で生産された60ブランド1500アイテム超の製品は、国内21ヶ所の物流拠点に集められて在庫され、受注から24時間以内に納品できる体制です。
参照:花王株式会社 ホームページ
花王の事例のポイントは、卸店を通さず小売店から自社(花王カスタマーマーケティング)に受注データを収集・需要予測を行って、商品在庫の最適化を図っている点です。
トヨタ自動車株式会社(サプライチェーンマネジメントの事例)
トヨタ自動車の豊田喜一郎氏が提唱したジャストインタイムの生産方法は、「必要なものを、必要なときに、必要なだけ」供給する生産計画です。ジャストインタイムは、無駄をなくし生産効率はアップしますが、単一のサプライヤーで部品供給が災害などでストップすると、全ラインが停止するリスクがありますので、サプライチェーンのバックアップを取っています。
サステナビリティデータブック2020によると、トヨタが直接取り引きしている1次サプライヤーの数は、グローバルで、部品サプライヤーで3,605社、(国内455社)部品以外のサプライヤーを加えると9,849社(国内897社)になります。
トヨタ自動車は、製造・組み立てのみならず販売現場にも直販店などを展開し需要予測を行っています。世界中にある完成車と部品の生産拠点を連携させ適切なタイミングで部品を生産・調達し、各世界地域それぞれに異なる市場特性に応じた完成品を効率よく送り出せるような調達・生産・販売の連携の仕組みを構築しています。
サプライチェーンマネジメントの未来
インダストリー4.0対応
インダストリー4.0:第4次産業革命(オートメーション化およびデータ化・コンピュータ化を目指す技術的コンセプト)におけるサプライチェーンマネジメントは、AI(人工知能)、IoT(もののインターネット)、ハイパーオートメーションといった最新のテクノロジーによって、新しい製品・サービスを製造、流通、利用、メンテナンスさせる方法を変革しています。
ハイパーオートメーションについては下記投稿もご参考ください。
IoT(モノのインターネット)、スクレイピングやAPI連携によって収集したビックデータ・各種統計情報、進化した情報端末で収集された販売時点の情報を、AIによって分析することで需要予測の精度を画期的に向上させ、生産・在庫・物流の最適化できるようになりました。また、各プロセスに合理化によって人材はより高付加価値な業務にシフトを実現しています。
メンテナンスにおいては、故障するまで待ってから修理を行っていましたが、スマートテクノロジーによって、予知保全(連続的に機器の状態を計測・監視し、設備の劣化状態を把握または予知して部品を交換・修理する)によって、サプライチェーンは途切れず継続できるようになりました。
顧客起点のサプライチェーンマネジメント
顧客は店舗やオンラインなど、複数の購入方法の選択肢を持つようになり、顧客ごとのカスタマイズの要求水準も高くなっています。製品・サービス提供から保守までのCX(顧客体験)が重視されるようになってきました。より顧客の期待に迅速かつ正確に応えることが、サプライチェーンマネジメントのこれからの役割といえます。
CX(顧客体験)については下記投稿もご参照ください。
柔軟かつ信頼性のあるサプライチェーンマネジメントの運用
戦争・災害・疫病のまん延などへの対策、さまざまな法規制要件の変動など、サプライチェーンの変化によって生じるすべての影響に対して十分な柔軟性を備えている必要があります。柔軟性が高く、変化への適応性が高いクラウドベースのアプリケーションの運用や、ブロックチェーンによるトレーサビリティ、否認、信頼が、サプライチェーンマネジメントにおいて活用されています。
まとめ
サプライチェーンマネジメントは、情報通信技術革新によってさらに進化を続けています。既存の概念にとらわれないダイナミックな、消費者とサプライヤーを直接つなぐ顧客視点の高付加価値の新たなビジネスモデルが次々と創出されています。これまでの商習慣や商流の概念を超えた発想と行動が時代の要請となるでしょう。
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