ファイブフォース分析とは、外部環境分析において競合他社などの業界環境の分析を行い、事業における収益構造を明らかにするフレームワークです。本投稿では、業界別事例や、進め方について解説します。
ファイブフォース分析とは
ファイブフォース分析は、、ハーバード大学経営大学院教授のマイケル・E・ポーター氏が著作「競争の戦略」で提唱した、マーケティング戦略のフレームワークのです。
自社の脅威である5要素(①競合企業②新規参入業者③代替品④買い手の交渉力⑤売り手の交渉力)から、業界と競合の状況を分析し、収益構造を明らかにします。
競合企業・業界競争(業界別例とやり方)
業界市場及び直接の競合企業を分析します。市場は、規模や成長率を見ます。競合他社については、強み、差別化、価格、ブランド力、資金力を見ます。低成長市場で差別化が難しく、供給が飽和していれば、低価格競争に陥り利益を確保することが難しくなります。
スマートフォン業界
アップルが独自のブランド力をもって、高価格帯を維持していますが、スマートフォン製造技術自体は、汎用化され、資金力のもった競合同士の廉価による価格競争に陥っています。市場自体は規模も大きく成長しています。
自動車業界
国内市場は、若者車所有離れや少子高齢化による人口減によって低成長市場です。部品点数が多く、技術とノウハウ、商流の蓄積が必要で、競合企業は限られています。
トヨタ自動車が業界のリーダーですが、車種ごとの強みやグローバル展開によってすみわけができています。排ガス規制の要請による電気自動車や、AI技術による自動運転の対応によって、今後差別化をはかっていく必要があります。
新規参入業者(業界別例とやり方)
成長業界(市場の規模が上昇している)であれば、新規参入を検討する業者の数が増えます。一方では、新規参入障壁がどの程度かによって、実際に新規参入する業者が絞られてきます。新規参入障壁とは、事業に必要な設備規模、技術力、ノウハウ、ブランド力、販路、資金量などです。新規参入業者は以下の要素によって左右されます。
業界の魅力度(市場規模・成長率)×参入の容易さ=新規参入業者数
情報サービス業界
情報サービス業界に属するブログやアフリエイトは成長事業であり、かつ、小資本で参入が可能なので、新規参入業者が非常に多い業界です。
新電力業界
新電力業界(特定規模電気事業者)は電力事業規制緩和によって、成長性は認められる一方、装置産業であり設備投資が必要ですが、技術や装置は外部調達が可能ため、一定の新規参入業者数があります。
半導体製造装置製造業界
半導体は需給がひっ迫しており、半導体製造装置製造業は成長産業です。しかし極めて高い技術の蓄積が必要です。国内では有力なプレイヤーは東京エレクトロン株式会社くらいであり、新規参入は困難です。
代替品(業界別例とやり方)
代替品とは、自社の製品、サービスの顧客ニーズに対して、同様の価値があるものです。代わりに購入検討されるため、自社にとっては脅威となります。
コストや機能、利便性、販売網などで、代替品との差別化することで、市場を確保する必要があります。
カメラ業界
デジタル一眼カメラは、高品質のスマートフォンが代替品の脅威となっています。望遠ズーム時、暗所・逆光撮影時の画質、ボケ感の違いや、操作性、トータルコストで差別化をはかっています。
酒類・アルコール業界
ビールに対して、発泡酒が代替品になります。ビールは発泡酒に対して非価格競争(味の差別化)をしています。ビールの新商品は、味の特徴を打ち出しています。
買い手の競争力(業界別例とやり方)
買い手の競争力とは、自社の商材、サービスにおける、顧客や消費者との力関係をさします。買い手の交渉力が強いと利益が圧迫される要因となります。
鉄鋼業界
鉄鋼業界においては、メーカーは買い手の商社を介在する必然性がないケース(直接ユーザーへ販売もできる)は、メーカー側に力があります。買い手の商社は、メーカーに配慮しながら、販売手数料を確保します。
自動車部品メーカー業界
自動車部品メーカーにとっては、代替のきかない特殊な部品を除き、完成車メーカーの力が強く、品質やコスト削減要求に応じる、継続した営業努力を行っています。
売り手(仕入)の交渉力(業界別例とやり方)
売り手の交渉力とは、自社と売り手(仕入先)の力関係をさします。
仕入れる部材や製品の希少性が高かったり、必要不可欠であり、代わりの仕入先が見つけにくい場合は、売り手の交渉力が強くなり、価格や供給量のコントロールができます。
電気自動車業界
電気自動車で使われる電池やモーターは、入手が困難な特殊金属に依存しています。特殊金属を供給している仕入先が力を持っています。
京野菜業界
ブランドが確立され、人気の高い京野菜を供給する農家は、独占供給契約を求められたり、多様な販売先を選択したり、仕入先が交渉優位にたちます。
ファイブフォース分析の目的
業界の中での自社のポジションを把握する。
業界と競合他社を分析することで、相対的な自社の強みや弱みを認識することができます。競争優位の立つための克服すべき弱点と、伸ばすべき強みを把握します。競争優位に立つことで結果として収益性の改善が期待できます。
経営資源を最適配分する。
競争に勝ち抜くための、経営資源の選択と集中を行うプランに活用します。業界への新規参入及び撤退の判断材料にします。
ファイブフォース分析の活用シーン
SWOT分析との併用
ファイブフォース分析は、外部ミクロ環境の分析に優れています。したがって、SWOT分析を行う際に、併用されることが多いです。SWOT分析では、外部マクロ環境、外部ミクロ環境から機会(+)と脅威(-)、内部環境から強み(+)、弱み(-)面を洗い出し、戦略を検討する汎用性の高いフレームワークです。SWOT分析については、下記投稿をご参考ください。
業界への新規参入、新商品開発
新たに業界に参入を検討する場合において、ファイブフォース分析によって、参入障壁や、自社が確保できそうなシェアや利益を事前に予測することができます。例えば、買い手と売り手の交渉力から、自社が確保できそうな利益を想定したり、競合企業や代替品の分析から、自社が獲得可能性のある市場シェアを予測します。
相対的な自社の強みと弱みの把握
競合他社や、代替品の評価を行うことによって、自社サービス・商品・ビジネスプロセスの優位性や、弱みを客観視することができます。強みについては、集中的に経営資源を配分することによって競争優位の源泉にします。競合や代替品に比べた弱みについては、撤退を検討したり、優れた外注やアウトソーシングを活用することによって克服します。
ファイブフオース分析の注意点
第六番目のフォースの補完的生産者
補完的生産者とは、自社の製品の価値を高めてくれ、競合とは正反対の存在です。第六番目フォースといわれています。
例えば、ゲームハードウェアに対して、魅力的なソフトウェアが該当します。コーヒー豆にとっては、ミルクです。
補完的生産者には、競争ではなく、協調を戦略要素とします。
目的と範囲
ファイブフオース分析は、外部ミクロ環境であり、外部マクロ分析であるPEST分析に比べ、比較的範囲を限定することができます。しかし、分析の単位が細かくなりすぎたり、時間軸の共通認識が不足していると、焦点が絞れず有効な戦略が導きだされません。分析を行う当初の目的にそって、分析単位や時間軸を設定することが重要です。
客観性
主観や思い込みが分析にはいると、導きだされる結論が、夢物語になったり現実性がなくなります。希望ではなく、現実的な分析をおこないます。
他の戦略策定フレームワークとの使い分け
ファイブフォース分析は、外部環境ミクロ分析に適しています。一方、外部環境マクロ分析は、PEST分析が得意です。PEST分析は外部マクロ環境である4つの視点 P: Politics(政治)E:Economy(経済)S:Society(社会)T:Technology(技術)から、それぞれの頭文字の「PEST」分析としています。
PEST分析については、下記投稿もご参考ください。
ファイブフォース分析の業界別事例
ゲーム機器メーカー業界(ファイブフォース分析の業界別事例)
業界、競合企業(ゲーム機器メーカー業界)
角川アスキー総合研究所によると、2020年に新型コロナウイルス禍による巣ごもり需要の影響などから31.6%増と大きく伸び、20兆円の大台にのりました。
2022年8月25日の発表によると、2021年のゲーム市場は、ワールドワイドで前年比6.1%増の21.9兆円としています。
家庭用据え置き機器は、任天堂やソニーのプレイステーションが、しのぎを削っています。2022年3月期の比較によると、任天堂が売上1兆7000億円、営業利益が約6000億円、ソニーのゲーム事業は、売上が役2兆3000億円、営業利益が約3500億円となっています。
新規参入(ゲーム機器メーカー業界)
据え置きゲーム機器は、高機能化しており、ソフトウェア、ハードウェア双方参入には、技術力と設備投資が必要となっています。新規参入は大資本もしくは、開発技術の優れた企業にかぎらています。
代替品(ゲーム機器メーカー業界)
ゲーム機器は、代替品の脅威が大きい業界です。特に据え置きゲーム機器は、手軽なスマートフォンゲームが、大きく成長し脅威となっています。
買い手の交渉力(ゲーム機器メーカー業界)
ゲームユーザーは、一般消費者です。店舗販売が主流の時代では、品薄の人気タイトルには長蛇の列ができましたが、ネット時代においては、ユーザーの口コミ拡散には注意を払う必要があります。
売り手の交渉力(ゲーム機器メーカー業界)
現在は特に半導体が、世界的に品薄状態です。仕入れの価格上昇圧力がかかっています。
空気清浄機業界(ファイブフォース分析の業界別事例)
業界、競合企業(空気清浄機業界)
市場自体は、新型コロナウイルス蔓延の影響が大きく高成長となっています。空調メーカーのダイキン工業株式会社やシャープ株式会社などがシェアを持っています。
新規参入(空気清浄機業界)
社会的な注目も高くオゾン、HEPAフィルタ方式、電気集塵方式とさまざまな技術要素を活用して、多くの企業が参入して激しい競争となっています。
代替品(空気清浄機業界)
据え置き型の空気清浄機と、空調設備に組み込まれている空気清浄機能は代替品の関係にあります。
買い手の競争力(空気清浄機業界)
電気集塵方式で使われるLEDは、品薄状態が続き、価格高騰や生産制約になっています。
売り手の競争力(空気清浄機業界)
新型コロナウイルスへの有効性の立証にハードルがあります。病院をはじめとして信頼性のある空気清浄機への需要がたかく、高機能、高価格の製品開発による高水準の利益の確保も想定されます。
まとめ
ファイブフオース分析は、主に外部ミクロ環境分析に優れた戦略策定フレームワークです。自社の特性に応じた、経営戦略に役立てたり、SWOT分析と組み合わせてら有効活用しましょう。
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