SWOT分析は、企業の内部環境である「強み(Strength)、弱み(Weakness) 」と外部環境 である「機会(Opportunity)、脅威(Threat)」の頭文字をとった、戦略策定のフレームワークです。
新型コロナウィルスは世界に様々な影響を与えました。企業経営は、外部環境の変動に対応していかなければなりません。また、「彼を知り己を知れば百戦殆うからず」のことわざにあるとおり、内部環境である自らを知ることが、適切な戦略策定には欠かせません。
SWOT分析は、内部環境と外部環境を分析し経営資源(ヒト・モノ・カネ)の最適化はかります。本投稿では、SWOT分析の活用事例とアフターコロナにおける経営戦略を見ていきます。
SWOT分析の歴史と目的
SWOT分析の歴史
戦略策定において、外部環境と内部環境を分析する考え方は、古くからありました。
1960年代、スタンフォード研究所では経営コンサルタントのアルバート・ハンフリーが、研究プロジェクトにおいて(経営計画が失敗に終わる理由の分析のため、1,100以上の企業で5,000人以上の幹部にインタビューを行いました) 企業活動を評価する仕組みとしての「SOFT分析」を考案しました。
現状の良い評価を満足(Satisfactory)、将来の良い評価を機会(Opportunity)、現状の悪い評価を失敗(Fault)、将来の悪い評価を脅威(Threat)に分類しました。1964年にはFがW 弱い(Weakness) に変更され、「SWOT分析」という言葉が生まれました。
注:一般的に現代のSは 、満足 (Satisfactory) でなく 強み(Strength)
1965年には、ケネス・アンドルーズ(ハーバードビジネススクール教授)らは、機会・リスク(現在は脅威)・強み・弱みから企業を分析し、戦略を策定する「Business Policy: Text and Cases」を記述しました。ビジネススクールの教科書として普及し、米国企業中心に幅広く活用されています。
SWOT分析の目的と活用
SWOT分析の目的は、経営・マーケティング戦略の立案です。
既存事業については、強みを伸ばし、弱みを克服して他社との差別化を行うなどの改善点を見出すことができます。一方、脅威があり弱い分野は撤退を検討します。
新規事業については、市場の成長などの機会をとらえます。また、歴史や積み重ねからくる自社の強みは、新分野進出においても武器となります。SWOT分析によって、新規事業の差別化戦略を策定し、競合との競争に負けるリスクを低減します。
SWOT分析を行うときは、何のために分析するかの目的を明確にすることが重要です。分析結果から戦略を導き出すシナリオによって、企業を成長に結ぶつけることこそが、SWOT分析の目的なのです。
SWOT分析の方法論・やり方
外部環境分析(機会・脅威)
自社にとってインパクトのある、外部環境要因を洗い出します。マクロ環境要因(政治経済・社会文化・技術動向)から、自社にかかわりの深いミクロ環境要因(市場需要・競争環境・仕入れ先)まで分析します。
マクロ環境分析(PEST分析)
外部環境分析のマクロ環境要因は、PEST分析を活用します。 マクロ環境(外部環境)である4つの視点 P: Politics(政治)E:Economy(経済)S:Society(社会)T:Technology(技術)から、それぞれの頭文字の「PEST」分析といいます。PEST分析について詳しくは、下記投稿をご参照ください。
ミクロ環境分析
ミクロ環境分析では、市場需要(顧客動向)や、競争環境(競合他社、代替品)、仕入先(供給先)を見ます。業界や会社ごとの事情に合わせて、具体的かつ現実的に分析するのがポイントです。
外部環境分析のミクロ環境要因には、3C分析も活用できます。3C分析は顧客「Customer」競合「Competitor」自社「Company」3つの視点から事実を調査、分析を行うことで、自社の事業環境に関する課題を探し出すフレームワークです。
3C分析について詳しくは、下記投稿もご参考ください。
外部環境分析の一般的な手順としては、PEST分析(マクロ環境)→3C分析(ミクロ環境)→SWOT分析となります。
ファイブフォース分析
外部環境である脅威 (Threat) を分析する手法には、ハーバード大学経営大学院マイケル・ポーター教授が提唱したファイブフォース分析があります。
- 新規参入業者:業界に新規参入した企業(切替コスト・規模の経済)
- 代替品の脅威:現在の商品やサービスの代替品になる可能性(価格・機能・利便性)
- 競合企業 :業界における競争(販路・価格・性能)
- 仕入交渉力 :加工・部品・商品を供給する企業との力関係による利益水準
- 顧客交渉力 :買い手の市場規模、購買力による値下げ圧力など
以上の5つの要因(脅威)が、強力だと業界の収益性が低くなります。
ファイブフォース分析について詳しくは、下記投稿もご参考ください。
内部環境分析(強み 弱み)
強みは企業の競争力の源泉です。弱みは克服もしくは回避すべき課題です。企業ごとの個別の事情を、なぜ、なぜで問いかけることによって本質を洗い出します。項目としては、組織・社風、人材力、製品・仕入れ力、業務管理力、サービス力、IT・情報活用、経営力などとなります。
VRIO分析
企業の内部分析(強み・弱み)を分析するフレームワークにVRIO分析があります。必要に応じて活用します。
Value(経済的な価値)
企業の有する設備、資金力などの経済的な価値を分析します。
Rareness(希少性)
競合が手を出していないビジネスであるかどうかを見ます。希少性が低ければ、価格競争に巻き込まれ利益の確保が難しくなります。
Imitability(模倣可能性)
模倣が難しければ、長期間にわたって競争力を保てます。
Organization(組織)
企業文化、意思決定のプロセス、柔軟な運営など経営資源を有効に活用する組織力を見ます。
VRIO分析は一覧表型で分析すると、競合に比べる優位性および持続可能性を洗い出すことができます。企業の内部環境(強み弱み)を俯瞰することに適した利用方法です。
アパレルと素材メーカが戦略的提携した際におけるVRIO分析の事例です。消費者データ分析による、高密度な商品開発を行うことによって競争優位を確立しています。
クロスSWOT分析
外部環境と内部環境の組み合わせから基本戦略を策定します。
積極化戦略 強み(Strength)×機会 (Weakness)
自社の強みが生かせる外部環境の機会があるため、積極的に取り組みます。限られた経営資源(ヒト・モノ・カネ)を集中的に投入するのは、この象限です。
段階的強化戦略 弱み (Weakness) ×機会 (Weakness)
外部環境に機会はあるのですが、自社の弱みがある象限です。時間や経営資源を投入して、弱みを克服して機会をとらえます。
差別化戦略 強み (Strength) ×脅威 (Threat)
自社の強みを生かして外部脅威を克服するか、回避します。
撤退戦略 弱み (Weakness) ×脅威 (Threat) 撤退戦略
脅威がある上に、自社が弱い象限です。経営資源を投入しても実りが少ないため、撤退を検討します。
クロスSWOT分析により、導き出された経営戦略から、経営計画・戦略目標やアクションプランを設定します。
SWOT分析注意点(複数の解釈)
同じ事実においても、解釈や見方によって、強みとなったり弱みとなるケースがあります。また、脅威だと思われたものが機会になったりもします。多面的なとらえ方を行い、可能性を追求します。
複数解釈事例①
事実:社員の年齢が高齢化している。
弱み:平均給与が高く、固定費の負担が重い。
強み:経験の長い社員が多く在籍し、サービスの質が高い。
複数解釈事例②
事実:新型コロナウィルスの影響で外食が減少している。
脅威:店舗型飲食店の来店者数・売上が激減する。
機会:持ち帰り型の総菜店舗が伸びている。
同じ事実からも、複数の解釈が生まれることによって多様な戦略の可能性が広がります。一つに絞るのではなく、オプション思考による代替案も用意できます。
アフターコロナのSWOT分析 活用事例(飲食業)
新型コロナウィルス蔓延で、外部環境の影響が大きい飲食業におけるクロスSWOT分析の事例を見てみます。
事例企業は、関西圏、首都圏に多店舗展開をしています。京野菜を栽培している農家と契約をしています。
新型コロナウィルスの蔓延により、実店舗の売り上げが激減したために、補助金を活用した新しいビジネスモデルに取り組みました。
京都の名所観光を、バーチャルで体験できるサイトを立ち上げました。取り扱いの京野菜のECサイト通じて販売を開始しました。
実店舗においては、採算が悪化した、首都圏の店舗を閉鎖しました。また、継続維持した店舗においても、季節変動や顧客嗜好のデータを収集して売上予測などを実施するAIの仕組みを導入しました。
AIを活用した効率的なオペレーションにより、社員はメニュー開発や、販促コンテンツの企画作成など付加価値の高い仕事に集中することができました。
SWOT分析 活用事例 中小企業建材卸売業
中小企業の輸入電材卸売業の事例です。経営者交代のタイミングでSWOT分析を行いました。
強み
- 大手建設業との取引実績
- 経営者の関連業界における人脈
- 輸入先大手メーカーと直取引のパイプ、良好な関係、国内製品に対しての価格競争力
- 建設施工における資材供給スケジュール管理の知識・ノウハウ
弱み
- 販売先の集中
- 社員の高齢化、トップ依存の営業力
- 継続売上の基盤ぜい弱
- 競争優位に立つ技術・ノウハウの欠如
機会
- 省エネ、クリーンエネルギーの社会的受容の高まり
- 高経年化した送電設備の更新需要
- 特定規模電気事業者数の増加
- 電力小売市場の全面自由化
- 国内強電製造業の価格上昇
脅威
- 国内の人口減少などの影響によるエネルギー最終消費のピークアウト
- 輸入元国と日本の製品の品質管理の考え方の相違
- ドル高政策などによる仕入れ値の変動
- 政策変更による特需の陰り
本事例においては、SWOT分析の結果、今後のエネルギー政策に沿った事業展開を行いました。また、若手人材を採用育成し、経営者・社員のノウハウや人脈の引継ぎを行いました。
SWOT分析 活用事例 ヤマトホールディングス株式会社
強み
- 宅配便リーディングカンパニーのヤマトという強力なブランド力
- 国内に展開する高密度のネットワーク、社員、車両などの経営資源
- 会員顧客数(登録者数5000万人以上)
弱み
- 人件費などの固定費の件費の上昇
- 手作業が多く人材確保が困難
- 組織間連携、情報伝達
機会
- ネットショッピングの需要拡大
- 新型コロナウィルスまん延による巣ごもり需要
脅威
- 人口減少などによる配送・倉庫人員不足
- 「2024年問題」時間外労働時間の制限
ヤマトホールディングスの主力事業である宅配事業の効率化のため、宅急便のデジタルトランスフォーメーション戦略を打ち出しました。
- 顧客と荷物情報のリアルタイム連携やデータ一元化により、顧客が荷物状況をすぐに確認
- 駅のロッカーやコンビニエンスストアなど自宅以外での指定場所受取
- 顧客体験(CX)重視:利用シーンにあわせた送り方、受け取り方の提供
- パッケージ商品の開発(産地直送等)
SWOT分析 活用事例 ソニー株式会社
強み
- 世界最大級のAV機器メーカーである。
- 国内外において強力なブランド力を持っている。
- ソフトとハードの融合によりエレクトロニクス、映画、音楽、金融など多角的な事業展開を行っている。
- 優れた発想力と開発力を持っている。部門横断で新規事業を推進する文化
- 技術革新力と研究開発力
弱み
- 水平分業モデル(複数の企業が得意分野を分担して製品を供給)を導入し、多種の事業を行っている反面、モノづくり自体の体制が弱体化している。
- 中長期的な成長戦略が明確になっていない。
- IT分野はアメリカのシリコンバレー勢(GAFA)に圧倒されている。
- グローバル競争の中で、相対的にコスト構造の高くなっている。
GAFAについては、下記投稿もご参考ください。
機会
- AI、IoTと技術革新が進み、デジタル化製品の活躍の分野拡大
- 消費者嗜好の多様化による、ソフトウェア、コンテンツビジネスの成長
- 人口が増加する新興国の市場が拡大している。
脅威
- 中国、韓国をはじめとした新興国のメーカーの成長、レベルアップ
- グローバルサプライチェーンによる汎用品の価格競争激化
- 消費者向けの製品ライフサイクルが短くなる中、市場ニーズへの迅速な対応が求められる。
ソニーの経営戦略
人がやらないことをやって新しい価値を市場に創る。高付加価値商品の製造を行ないます。実績としては4Kテレビ、ハイレゾの音響機器、ミラーレス一眼カメラなどがあげられます。
新しい市場へ挑戦続けます。事業を多角化し新しい市場へチャレンジします。創業のエレクトロニクス事業から多角化し、エンターテインメント事業、金融コングロマリット化(銀行、保険、証券)などに進出しました。ソニーフィナンシャルHDを完全子会社化し、AI(人工知能)と自動車保険や要因分析ツールなど、事業間のシナジー効果を追求します。
ソニーファンをつくるカスタマーマーケティングを行います。メールやWeb以外にも、アプリでの個別対応を拡大し、購入後のユーザーに向けてコミュニケーションサイト、リアルでの体験会などを開催してます。
テンプレートと着眼点について
クロスSWOT分析と内部環境分析及び外部環境分析の着眼点について、エクセルのテンプレートを低きゅします。下記をクリックフォームを入力して、メール送信いただければ、ダンロードURLをお送りいたします。
SWOT分析のまとめ
SWOT分析で混同しがちなのは、内部環境と外部環境の切り分けです。自社の力で変えていけるものは内部環境と考えます。
SWO分析は現在時点の戦略をたて、経営計画やマーケティングプランに落とし込む オーソドックスかつ汎用性の高いフレームワークです。中小企業診断士試験の2次試験には必須となっています。
将来のシナリオを考える上ではシナリオプランニングの技法も活用できますので、以下の投稿もご参考ください。
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