キャリアアンカーは、人生の選択の上で「絶対に譲れない働き方」です。重要な意思決定に影響を与え続ける価値観です。キャリアアンカー診断は、採用、配置、異動などの場面に活用できます。社内で共有し、強みを活かしあうことで、社員エンゲージメント(忠誠心)向上や組織人材の成長につなげることができます。
キャリアアンカーとは
キャリアンカーとはアメリカの心理学者であるエドガー・ヘンリー・シャイン(1928年~)によって提唱されたキャリア理論の概念です。
シャイン氏は組織による教え導きだけでなく、個人にも注目しました。「組織」と「個人」の相互作用という視点で「組織心理学」という分野を開拓しました。
キャリアアンカーの特徴としては、What「何が好き」「何が得意」「何がしたい」という一般的な分析法からさらに踏み込んで、How「どのように働きたいか」という、人生のキャリア選択の基軸となる点です。
個人は、絶対に譲れない動機、コアコンピタンス(能力・力量)、価値観が交差する安息地に、人生の錨(アンカー)を降ろすとしています。
「あなたのキャリア・アンカーとは、あなたがどうしても犠牲にしたくない、またあなたのほんとうの自己を象徴する、コンピタンス(訳注:有能さや成果を生み出す能力)や動機、価値観について、自分が認識していることが複合的に組み合わさったものです」
「キャリア・アンカー」(E・H・シャイン 白桃書房)
シャイン氏の概念に加えて、動機、コアコンピタンス(能力・力量)、価値観の根源となるものが、生きる目的(使命)とします。
どのように働くのかの選択の基軸である「キャリアアンカー」は、なぜ生きていくのかという問いの答えである「使命」への覚醒が原点となります。
キャリアアンカー診断(アセスメント)
キャリアアンカーはキャリア上の価値観や判断基準を問う40問の質問に答えることで8つの分類に分けられます。
診断については、以下のサイトで無料で診断することができます。
キャリアアンカー診断の活用方法
転職活動においては、自分の将来やっていきたいことや、得意分野を見つめなおす必要があります。
就職活動においては、自己分析による「やりたいこと」及び「得意分野」と「企業が求めること」のギャップを認識することが大切です。
キャリアアンカー診断は、客観的に自己分析をするうえで有効な手段となります。
診断の注意点
問いは、ある程度の社会人経験があることが前提になっています。キャリアアンカーはキャリア形成される30歳前後にならないと、適切に当てはめることができないとされています。
40題の問は、自己認識による選択となります。自己が正しく認識できていない時は、正しい分類ができるとは限りません。
また、能力判定基準はないため、コアコンピタンス(何が得意か)については客観性があるとはいえません。
キャリアアンカーの8つの分類と職種例
管理職志向(General Managerial Competence)
幅広い経験や視点を持ち、経営に参画して組織で責任ある働き方をアンカー(安息地)としています。
職種例:ジェネラルマネージャー、部長・次長・課長職、業務執行役員
動機:出世欲 社会的名声獲得 金銭欲
価値観:権限を持つ
コアコンピタンス:組織におけるマネジメント力
専門職志向(Technical/Functional Competence)
自分の専門領域を究めていく働き方をアンカー(安息地)としています。
職種例:研究開発職 技術職 エンジニア 各種職人
動機:専門知識、技術への探求心 知的好奇心
価値観:専門性を高め、技能を発揮する
コアコンピタンス:特定分野における知識、経験、技能、見識
自律・独立志向(Autonomy/Independence)
自分のペースやスタイルで仕事できる環境を優先できる働き方をアンカー(安息地)としています。
職種例:フリーランス 芸術家 作家
動機:自由を得たい
価値観:独立心
コアコンピタンス :自立できる意志の力 自律
安全・安定志向(Security/Stability)
将来の保障や安定を得る働き方をアンカー(安息地)としています。
職種例:公務員 重厚長大基幹産業
動機:将来が見通せる安心感を得たい
価値観:忠誠心と安定した生活
コアコンピタンス:着実なる計画と遂行能力
起業的創造性(Entrepreneurial Creativity)
創造性をもって新しい事業や価値を生み出す働き方をアンカー(安息地)としています。
職種例:起業家 発明家 新規事業開発
動機:新たな価値を生み出したい
価値観:創造性を大切にする
コアコンピタンス:企画力 アイディア力
奉仕・社会貢献(Service/Dedication to a Cause)
社会貢献や人に役に立つ働き方をアンカー(安息地)としています。
職種例:医者 看護士 社会福祉関連職 教育関連職 品質管理
動機:人のために働きたい
価値観:世の中をより良くしたい
コアコンピタンス:奉仕精神 誠実
純粋な挑戦(Pure Challenge)
困難に挑戦して、克服していく働き方をアンカー(安息地)としています。
職種例:営業 スポーツ選手
動機:課題を乗り越えたい ライバルに勝ちたい
価値観:挑戦する心
コアコンピタンス:厳しさや難しさを乗り越える姿勢
生活様式(Lifestyle)
仕事とプライベートをバランスが取れる働き方をアンカー(安息地)としています。
職種例:事務職 福利厚生制度が整っている企業
動機:仕事以外にも自分の生活を大切にしたい
価値観:仕事とプライベートのバランス
コアコンピタンス:バランスの取れたものごとへの取り組み 精神的安定感
キャリアアンカーの活かし方(組織活用)
採用
新卒採用においては、キャリアアンカーの概念が十分に認識できていないので、活用は難しいです。
中途採用の際には、採用の背景になる求めるポジションと期待されるキャリアプランと、候補者のキャリアアンカーとの適合性は参考になります。
注意点としては、候補者自身が質問の意図を見抜いて、採用に有利な選択肢を選ぶ可能性があることです。
異動
特に専門職と、管理職のコースわけの際には、選定の材料となります。異動候補先の部署での業務の特性と本人のキャリアアンカーとの整合性によって、本人の仕事へのモチベーションが左右されることがあります。
教育研修
本人自体がキャリアンカーについて自覚することが、キャリア形成上有用です。自分に合った働き方を見出して、実現のために学ぶプロセスが成長をうながすからです。また、自分がどこにエネルギーを注ぐべきなのかについても、キャリアアンカーは指針となります。
教育研修としては、新入社員研修から、キャリア研修まで幅広く活かすことができます。
多様な働き方を実現する職場づくり
キャリアアンカーは、それぞれの価値観を分類したものであり、良い悪いの判断ではありません。少子高齢化の人材不足の中で、社員の価値観を知り受容することによって、多様な働き方を実現する職場づくりに活かすことができます。
働き方改革については、下記投稿もご参考ください。
まとめ
キャリアアンカーは、組織運営に有効活用できます。ただし、タイプによって決めつけず、最終評価を下したりや処遇決定するべきものではありません。
様々なタイプが生き生きとして働ける職場環境を提供することが、これからの時代にマネジメントの重要な要素です。
キャリアンカーを組織運営に活用することで社員エンゲージメント(忠誠心)を高めることができます。
社員満足度とエンゲージメント(忠誠心)については下記投稿もご参考ください。
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