リスキリング 事例と導入ステップ DX人材育成

リスキリング人事 キャリア
リスキリング

リスキリング(reskilling:再びスキルを身につける)とは「新しい職業に就くために、あるいは、今の職業で必要とされるスキルの大幅な変化に適応するために、必要なスキルを獲得すること」です。本投稿では、リスキリングによるDX人材育成事例と導入ステップについて記載します。

リスキリングは、デジタル化にともなう新しい職業や仕事の進め方に対応したスキルの習得の仕組みとして注目されています。

2022年10月3日日本経済新聞によると、岸田文雄首相は衆院本会議で所信表明演説し、個人のリスキリング(学び直し)の支援に5年で1兆円を投じると表明しました。人への投資と企業間の労働移動の円滑化のために、受け入れ企業への支援や、リスキリングから転職までを一気通貫で支援する制度といった施策を新設・拡充したいと考えています。

リスキリングとは(AT&Tの事例)

アメリカの巨大メディア・情報通信コングロマリットのAT&Tは、リスキリングの先駆者として知られています。電話の発明者グラハム・ベルの会社を前身として、1885年世界初の長距離電話会社として発足して以降、再編統合を繰り返して存続してきました。

2000年代の経営環境の変動(スマートフォンの普及・通信の高速化)では、収益の柱であったハードウェア領域からソフトウェア領域へ収益をシフトする必要性に迫られました。

2008年にAT&T社内で行った調査では、従業員25万名の内、未来の事業に必要なスキル(サイエンス・エンジニアリング)をもったのは半数に過ぎず、10万人は存在しないと予想されたハードウェア関連のスキルしか持っていないことが判明しました。

AT&Tは2013年に「ワークフォース2020」をスタートしました。2020年に必要なスキルセットを特定、約10億ドルを投入し、約10万人の従業員にリスキリングプログラムを実施しました。

まずリスキリングを促進する環境整備として、必要なスキルや能力が明示化されました。重要性の高いスキルの保有者や、訓練コースでの好成績者に報いる報酬体系を整備しました。

次に、従業員のキャリア開発支援ツールである「キャリアインテリジェンス」を提供しました。これにより従業員が社内の就業機会を検索し、興味のあるポストの今後の見通し、賃金の範囲、必要なスキルを知ることができるようになりました。

また、大学等外部の機関と連携して、サイバーセキュリティ、WEB開発、データサイエンス、プログラミングのオンラインの訓練コースの開発、提供しました。

2017年には、ワンストップ学習プラットフォーム、「パーソナル・ラーニング・エクスペリエンス」の提供を開始し、従業員自らがが学習管理を行えるようになりました。

現在、社内の技術職の81%が社内異動によって充足されてました。リスキリングプログラムに参加した従業員は、そうでない従業員と比べ、年度末に1.1倍高い評価を受け、1.3倍多く表彰を受賞し、1.7倍昇進しており、離職率は1.6倍低いという結果が出ています。

参照:AT&T WEBサイト等

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リスキリング革命

第4次産業革命によって次のような技術革新が進んでいます。

  • IoT及びビッグデータを解析・利用することで、新たな付加価値の創造。
  • AI、コンピュータなどのー自らが学習し、一定の判断を実施。
  • 3Dプリンターにより、省スペースで複雑な工作物の製造。

2018年度版の「仕事の未来レポート」によると、第4次産業革命の自動化の影響から、主要経済国20カ国で、2022年までに7,500万人の雇用が失われると予測されています。一方では、技術進歩と新しい働き方により、1億3,300万の新しい職(機械やアルゴリズムを使う職など)が創出される可能性があるとしています。

IoT及びビックデータ解析については下記投稿もご参考ください。

IoTとは

教育によって、第4次産業革命による社会システム全体の変化に対応する知識と技能を習得する機会を提供します。すべての人に経済成長と、持続可能な世界に貢献する機会を得ることができます。

政治経済、学究、社会のリーダー連携による世界情勢の改善のための国際機関である世界経済フォーラム(ダボス会議)では、2020年1月に「リスキリング革命(Reskilling Revolution)」「2030年までに世界で10億人をリスキリングする」ことが宣言されました。

リスキリングが注目されている理由

AI・IoTなど技術革新が進む中で、これまでのITの概念にビジネスモデルの変革をあわせたDX時代が到来しています。デジタル技術によって仕事自体が大幅に変わる職業が増加します。環境変化に対応した新たなスキルを習得する、リスキリングが必要となってきました。

リスキリングはDX時代を勝ち残るために、企業経営にとっても、労働者にとっても重要な課題となっています。従業員がデジタル技術を活用するスキルを習得し、組織として新たな価値を創出する成長戦略が不可欠となってきました。

また、新型コロナウィルスのまん延によりリモートワークの普及など、仕事の内容、やり方が、IT技術者だけにとどまらず大きく変容しています。

リスキリング(デジタル技術の習得)は企業の新しい価値創造プロセスのために、IT技術者だけでなく、マーケッター、営業、間接部門あらゆる職種にもとめられれています。

DXについては、下記投稿もご参考ください。

経済産業省のリスキリングとDXの取組み

経済産業省でも企業自助努力だけに頼らずに、DX推進を促すための環境整備をおこなっています。人材育成についての課題意識から、審議会にて2021年2月から2022年3月まで5回にわたり「デジタル時代の人材政策に関する検討会」を開催してきました。

審議会の中で、「スキル・能力の見える化などとあわせて、企業内でのリスキリングをもっと促進するための取り組みが必要なのではないか」と課題として挙げられ、人材育成プラットフォームについて、経済産業省のデジタル人材育成施策として進められています。

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リスキリングとリカレント教育との違い

リカレント(recurrent)は「繰り返し」「循環」という意味で、生涯教育と言い換えられます。リカレント教育は、学校教育以後、社会に出てから再び教育を受け、仕事と教育のサイクルを回し続けるます。大学に入りなおすなど、新しい学びのために職を離れることもあります。

個人を主体として人生を豊かにする学習が「リカレント」ですが、リスキリングは、会社主体です。会社が従業員に対して、未来にわたって価値を出し続けるスキルや知識を学びなおす教育を行うことを「リスキリング」と呼んでいます。特にDX、IoT、AIなど情報技術革新に関するリスキリングのニーズが高まっています。

リカレント教育については下記投稿もご参考ください。

その他の類似用語と違い

アップスキリング

アップスキリング(upskilling)は、現職でスキルをアップすることです。ITをはじめとして、急速に進む技術革新の中、必要とされるスキルのレベルアップのスピードが求められています。

アウトスキリング

アウトスキリング(outskiilling)は、レイオフ、解雇の可能性のある従業員に対して、雇用主の協力の下、成長産業など需要のあるスキル教育を行い、現在の職とは異なる産業や、他社でのキャリア形成をはかることです。

アンラーニング

アンラーニング(unlearning)は、価値観や知識を見直しながら取捨選択し、その代わりに新しいものを取り込むことをさします。「学習棄却」「学びほぐし」とも言い換えられます。

リスキリングによるDX推進人材育成

DX推進人材育成の3つのメリット

DX人材不足への対応

2020 年 10 月 19 日三菱総合研究所の『目指すべきポストコロナ社会への提言』によると、向こう10年以内に、国内では事務職や生産職に数百万人規模の大幅な余剰が生じる一方、デジタル人材をはじめとした専門・技術職は同程度以上の不足が予測されています。

DX人材が不足する中で、外部から調達するよりも、リスキリングを行い余剰が予測される職種の社員に、DXスキルを習得してもらうことが合理的な人事施策といえます。

新事業の創出

新たなスキルの習得により、新規事業や、企画が創出される機会が得られます。

IT活用 働き方改革推進  

IT活用による業務の効率化、生産性向上につながります。より付加価値の高い業務へのシフト、ワークライフバランスをとりやすくなります。学びの意欲を促進し、従業員エンゲージメント(忠誠心)の向上が期待できます。従業員エンゲージメントについては、下記投稿もご参考ください。

従業員エンゲージメントとは

持続可能な事業体質への変革

社内業務に精通したDXコア人材の育成によって、時代環境に応じた企業の変革を促し、事業継続につながります。

DXイメージ

リスキリングによるDX人材育成導入の3ステップ

リスキリングの目的と目標を明確にする。

リスキリングを成功させるためには、目的と目標を明確にして、経営トップが参画して組織的な取り組むことが重要です。

AT&Tの場合は、収益の柱であったハードウェア領域からソフトウェア領域へ収益をシフトすることが目的でした。未来の事業に必要ないハードウェア関連の技術者10万人に、2020年必要なスキルセットを習得させることを目標にスタートし、約10万人の従業員にリスキリングプログラムを実施しました。

事業戦略からリスキリングで習得すべきスキル、対象の設定

DX人材育成といっても、企業の業界や職種、規模、従業員のスキルによって、取り組む優先順位や内容は様々です。事業戦略に即した組織・人材戦略をもとに、必要な人材像やスキルを明確にします。

三菱UFJ銀行のケースでは、コア人材の育成を「銀行業務の知見や実務経験に加え、テクノロジーやデザインのスキルも身に付け、DXをけん引する人材」と定義しました。AIやデータアナリティクスなどの「テクノロジー」、または顧客体験設計力や顧客接点設計力である「デザイン」を身に付けるスキルと特定したのです。

リスキリングプログラムの設計と実施

必要と特定されたデジタル技術の習得は、外部専門人材の活用が有効です。社内では、不十分なスキルや専門性を補うようにします。研修コンテンツ、スケジュール、対象者などのリスキングプログラムを作成します。

リスキリングの目的や、目標を社員に提示して、モチベーションを維持します。実施した後も効果を測定し、アンケートなどフィードバックをしてもらいながら改善をはかります。

社員への取り組み推進

実際に取り組むときのポイントは、強制でなく社員の自発的な意欲を引き出すことです。人事制度・評価制度と連動したり、1on1ミーティングで、キャリアパスの支援を行います。キャリアパスについては下記投稿もご参考ください。

キャリアパスとは

リスキリングの事例

ウォルマートのリスキリングの事例

世界最大のスーパーマーケットチェーンである、ウォルマート(本社:米国アーカンソー州)では、社員研修のためバーチャルリアリティ(VR)を、2018年9月には約1万7000台を全米の店舗に導入しています。

たとえば店舗に、「ネットで注文した商品を店舗で受け取るサービスのための専用機械「ピックアップタワー」などをはじめとした新たな設備を導入するなどの場合にも、バーチャルリアリティを用いて事前に取り扱い方法を身につける研修を行えます。

バーチャルリアリティを用いたプログラムで、年に1度の大規模セール「ブラックフライデー」など、頻繁にないイベントや自然災害などのトラブルに備えて、実際の経験がない従業員でも即戦力となれるスキルを身につけることができます。

VR

アマゾンのリスキリングの事例

GAFAの一角である、Amazon(アマゾン)では、2019年7月に、2025年までに7億ドルを投資して従業員10万人をリスキリングする計画を発表しました。

アマゾンで求められるのは、データマッピングスペシャリスト、データサイエンティストやビジネスアナリストなどの高度なスキルを持つ人材と定義しました。

技術職以外の従業員を技術職へ移行させる「アマゾン技術アカデミー(Amazon Technical Academy)」、テクノロジーやコーディングといったデジタルスキルを持つ従業員が機械学習スキルを獲得することを目指す「機械学習大学(Machine Learning University)」などがあり、デジタルスキルの全体的な底上げを目指しています。

GAFAについては、下記投稿もご参考ください。

日立製作所のリスキリング事例

世界でも有数の総合電機メーカーである日立製作所では、「デジタル対応力を持つ人材の強化」を重点課題の一つに掲げています。

日立製作所グループの人材育成をトータルに担う日立アカデミーでは、日立製作所と連携して、2020年度には、「デジタルリテラシーエクササイズ」という名の基礎教育プログラムを開発・提供しました。DXの概念や課題発見のトレーニング、課題解決の手順、問題解決の実行などを4ステップのエクササイズで段階的に学んでいきます。

日立製作所グループの全従業員16万人が受講することによって、DX人材を戦略的に育成していきたいと考えています。

キャノン株式会社 リスキリング事例

2018年には、研修施設「CIST(Canon Institute ofSoftware Technology)」を設立し、デジタル関連教育を拡充し、成長性の高い事業領域に人的リソースを移すために、研修と社内公募を合体させた「研修型キャリアマッチング制度」を実施するなど、幅広い人材のリスキリング(職業の能力の再開発・再教育)と社内転職を推進しています。従業員一人ひとりがキャリアを築き、活躍できる機会を創出することで「適材適所」を実現し、人的資本の最大活用を図っていきます。

出典:キャノン株式会社のホームページ

また2021年7月7日日経新聞によると、キャノン株式会社は、工場従業員を含む1500人にクラウドや人工知能(AI)の研修を実施するとのことです。

<3年間運用してのCISTの評価は>

モチベーションが高い受講者CIST設立後の効果として、人事本部の岡部哲夫主席は「参加者のモチベーションが高く、研修を上手に活用し、研修後はそれぞれ部門で活躍している」と話す。また、技術領域を拡大する研修を受講した技術者が、自分の専門分野のなかでもソフトウエアの技術を知らないとできない業務を担当し、職場で活躍しているケースも出てきている。今後に向けた課題を尋ねると、「現在は、組み込みソフトウエアの技術者向けの研修が基本となっている。クラウドやWebアプリなど、ソフトといってもさまざまな分野があるので、それらにも対応した研修を完成させていかなければならない」という。

出典:Business Labor Trend 2021.12

ヤフー株式会社 リスキリング事例

ヤフー株式会社は、誰もが活躍できる社会を目指し、あらゆる人のスキルをアップデートするリスキリングに取り組むため、国や地方自治体、企業が参画する「日本リスキリングコンソーシアム」に参画し、ヤフー・データソリューションではリスキリングパートナーとして、コンテンツの提供をしてまいります。ヤフー株式会社は、誰もが活躍できる社会を目指し、あらゆる人のスキルをアップデートするリスキリングに取り組むため、国や地方自治体、企業が参画する「日本リスキリングコンソーシアム」に参画し、ヤフー・データソリューションではリスキリングパートナーとして、コンテンツの提供をしてまいります。

引用:2022.06.16ヤフー株式会社お知らせ

またAI人材の拡充を図り、新事業を創出することを目的に、「日本・アジアから世界をリードするAIテックカンパニーになる」というヤフーグループ全体の目標に向け、2023年度までに全従業員8,000人のAI人材へリスキリングを実行するとしています。

まとめ

技術革新が引き起こしたDX推進の時代要請は、先進事例から経済産業省など省庁への取組み、そして各企業へ対応が広がりつつあります。既存のITと違う点は、時代の要請に応じた変革と、一部のIT技術者にとどまらない幅広い職種におけるリスキリングの必要性です。

リスキリングがこれまでの、OJTなどの社員教育や、リカレント教育の延長ととらえるのではなく、最先端のビジネスモデルの革新に応じた新たなスキルの習得です。経営者と従業員が一体となって、事業継続計画の一環として、投資と覚悟をもって取り組むことが重要です。

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