レジリエンス経営とは、苦境に置かれてもしなやかに復元する経営手法及びマインドです。精神医学・心理学の「精神的回復力」という概念から発展しました。経営も人も、常に順風満帆であることは稀です。厳しい状況に置かれたときにこそ、真の力が試されています。レジリエンス経営のビジネスマインドや研修について、事例を交えて説明します。
レジリエンスの歴史的背景
レジリエンスの歴史は、ユダヤ人の大虐殺行為「ホロコースト」で生まれた孤児の追跡調査がきっかけといわれています。
それまで、人が困難な状況や脅威にさらされる状況を長い間経験すると、何等か精神的な問題が生じると考えられてきました。
ところが社会への不適応状態に陥る人々がいる一方、不幸な経験を乗り越えて健全な幸せに生きていく人々もいることが判明しました。
レジリエンスの発揮条件
レジリエンスを発揮するために必要な条件を見ていきます。
自己受容と他者受容
自らや現状を受け入れることが一歩となります。自己受容により精神的な疲労が解消され、回復力のマインドが生まれます。
コツコツと小さな成功体験を積み重ね、自分を信じる心を育てます。些細なことで一喜一憂しないで、取り組み姿勢にぶれません。
自分を受容することで、物事を楽観的に捉えることができます。困難な課題にあたっても、「できない理由」よりも「できるためにどうするのか」を考えます。
人に対する深い理解から、他人を受容することにもたけています。ネガティブな点よりも、他の人の好い点を見出し協力関係を築くことができます。
厳しい状況に追い込まれたときのポイントは以下の通りです。
1.現状を理解し、素直にあるがままに受け入れます
2.目標や目指す状態を思い浮かべ、行動の意味を設定します
3.現在取り組めることから行動します
目的や目標あるべき姿に対して、粘り強く前向きに取り組むことによって状況が改善されていきます。そのことによって気持ちも上向き好循環が始まります。
レジリエンスの事例(東日本大震災)
2011年に発生した東日本大震災において、地震や福島第一原子力発電所事故による災害に見舞われましたが、ほとんど暴動はおきませんでした。秩序を保ち、飲食料の配給を順序正しく待つ被災者の方の姿は、世界中の人から称賛を浴びました。
大災害はかけがえのない多くの人命を奪い、多く物的な被害や、心の傷跡を残しました。一方においては、「今、何が自分にとって大切か」ということに向き合い、結果が出るまでは自分の感情を適切にコントロールして、困難な逆境に対しても優れた回復力・適応力を持つ人々の存在を示したのです。
レジリエンス経営の事例(トヨタ自動車)
2009年から2010年にかけてトヨタ車を運転中に発生した急加速事故によって、数々の訴訟が起こされました。トヨタは大規模なリコールを実施しました。
事故の原因がトヨタ車にあると主張され、トヨタは日米において、議会や消費者やマスコミから大バッシングをうけました。
2011年2月米運輸省・米運輸省高速道路交通安全局・NASAによる最終報告で、トヨタ車に器械的な不具合はあったものの、電子制御装置に欠陥はなく、急発進事故のほとんどが運転手のミスとして発表されたことにより収束に向かいました。
この問題解決には、不景気の際にも雇用を守ったトヨタの工場の従業員たちの支援広報活動も大きかったといいます。
苦境を克服できた理由として、トヨタの経営者や社員、関係者がこれまでトヨタが培ってきたことに誇りを失わず、必ず名誉を回復できることを信じてきたことがあげられるでしょう
一時地に落ちたトヨタのブランドイメージも、現在においては世界の自動車会社においてトップレベルの地位にまで返り咲いています。
レジリエンス経営の事例(ロイヤル・ダッチ・シェル)
シナリオ・プランニングという経営戦略は、未来を予見・適応する組織レジリエンス力であり、組織の強化にもつながります。
シェル社が発表している「ニューレンズシナリオ」は、「マウンテンズ」:(アメリカと中国の「G2」が利益を調整し合う関係)シナリオと「オーシャン」(市民社会、ネチズン、NGO、あるいはポピュリストといった集団がITによってエンパワーされ、自生的に秩序がつくられていく世界)シナリオという2つのシナリオを描き、2060年のエネルギー産業の未来を予測し、どちらのシナリオが訪れても迅速に対応できるような体制の準備を行なっています。
シナリオプランニングについては下記投稿もご参考ください。
ビジネスにおけるレジリエンス経営
苦境に陥った時にも、しなやかに回復に向かう会社には以下の共通点があります。
経営理念やビジョンなど組織の目的、あるべき姿が言葉が違えども浸透しており、組織のメンバーが同じベクトルを目指しています。
苦境に陥った際に離職者が増加し、組織がバラバラになる原因の一つとして、価値観が共有化できていないことがあげられます。
レジリエンス経営とは、メンバーひとりひとりが業務を通じて社会貢献して、自らの生きる目的である使命を実感している組織です。苦難を乗り越えるために知恵を振り絞り継続して成長しています。
レジリエンス経営のポイント
自社に自尊心や自信を持っている(レジリエンス経営のポイント)
過去において、自社の商品やサービスにおける誇りと自らの強みに対する自信が、困難に面しても打ち勝つことができる社員のマインドの源になります。
失敗や困難の時期を乗り越えた経験(レジリエンス経営のポイント)
失敗は成功のためのプロセスに過ぎないことが組織として周知されています。挑戦することに対する許容と理解があります。失敗しても再起が可能であり、経験を次の改善に生かせるマネジメントサイクル(Plan(計画)→ Do(実行)→ Check(評価)→ Act(改善)のサイクル)が出来ています。
PDCAサイクルについて詳しくは、下記投稿もご参考ください。
組織に広がる信頼感(レジリエンス経営のポイント)
困難に陥れば、周囲の人々が励ましあうことによって再起力を発揮することができます。上司と部下、同僚、他部署、取引先とにあるお互いへの信頼感が、レジリエンスの力となります。
信頼感は、普段からの価値観の共有や、互いに対する誠実な言動の積み重ねによって育まれます。
事実に基づいた大局観(レジリエンス経営のポイント)
良い結果・悪い結果に関わらず、事実をありのままに受け入れます。結果を受けて柔軟に目標を変更することができるため、変化に対して柔軟に適応できます。
目標を変更しても、そもそも組織の目的は普遍的な価値観として受け継がれます。
特に窮地の際には、細かいことにとらわれて組織に不協和音がおこりますが、組織に目的に立ち返り物事を大局的に見るリーダーが現れることによって、組織を問題解決の方向に導きます。
ミッション・ビジョン・あるべき姿の浸透(レジリエンス経営のポイント)
レジリエンス経営を実践するために、企業の存在意義であるミッションや理念を浸透させることは有効です。困難な局面から立ち直るために、経営と社員が同じ方向を向くことです。組織のあるべき姿を明確化して、環境の変化に対応していきます。
あるべき姿について詳しくは、下記投稿もご参照ください。
リスクマネジメント・BCP(事業継続計画)の取り組み
レジリエンスを高める経営の手段として、リスクマネジメント・BCP(事業継続計画)があります。災害などの有事の際の対処策をあらかじめ策定し、速やかに復旧する対応能力を高めます。近年においてはサイバーテロなどのセキュリティ対策も重要となっています。
リスクマネジメントについて詳しくは、下記投稿もご参照ください。
レジリエンスまとめと研修について
レジリエンス経営は、昨今は投資家が会社に投資する判断基準としても活用されています。会社が維持発展していくために、「変化への適応能力」「耐久力」「逆境への対処力」評価されるのです。
逆境や困難に打ち勝てる、精神的活力、知性、社会性を持ったビジネスパーソンを生み出す企業が、未来へ飛躍する企業となり、社会からも高い評価を得る時代です。
レジリエンスを高める研修については、個別に業種や個別に企業にあわせた研修を行っています。相談や提案は無料です。気軽にお問い合わせください。
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