アンガーマネジメントとは 事例と効果、研修、取組み

人事 キャリア

アンガーマネジメントとは、怒りを制御する心理教育です。より良い人間社会を形づくる取り組みといえます。人間にとって怒りは、本能であり必要な機能でした。発展した社会においては、怒りにはさまざまな悪影響があります。アンガーマネジメントの事例と、効果、研修、取組みについて見ていきます。

アンガーマネジメントとは

怒りは、目的を達成できない時、身体を傷つけられた時、侮辱された時などに起きる原始的な感情です。

怒りという感情は、目の前の敵に対して、襲いかかるか逃げるかを、体に実行させるために発生するものです。人間を敵から身を守り、淘汰されずに生き延びる本能です。

文明が発達するにつれ、社会的な生活を行うようになりました。人間関係でトラブルを起こさないために、本能からくる感情を抑えることが必要となりました

脳科学的に、怒りの感情は本能的な行動や感情に関わっている大脳辺縁系で生じます。

大脳辺縁系で発生した怒りの感情を、理性的な判断、論理的な思考やコミュニケーションといったことを行う前頭葉で抑えるメカニズムになっています。

前頭葉が本格的に働きはじめるまでにかかる時間は3~5秒程度と考えられます。

怒りで取り返しのつかなくなる言動しないために、6秒待つのが大切です。

アンガーマネジメントの歴史・背景

人間社会における怒りの負の影響は、古くから語られてきました。

ローマ帝国の政治家、哲学者、詩人であるルキウス・アンナエウス・セネカ(紀元前1年頃~ 65年)は、皇帝ネロの幼少期の教育係および在位期の政治的補佐を務めました。セネカは制御を失った暴君ネロによって自殺を命じられるました。

セネカは「怒りについて(De Ira)」において、「怒り」という感情の恐ろしさや影響力、コントロールの仕方について書いています。怒りやすい人々に対して、相手の立場に立って考えることで怒りを増長しないように助言しています。

現代では、1970年代よりアメリカでアンガーマネジメントの取り組みが本格化しています。

インディアナ大学 心理学教授のレイモンド・ノヴァコは、アンガーマネジメントの近代思想に影響を与えました。

怒りは状況に対する感情的な反応であり。認知、身体的影響、行動のいずれかで引き起こされるとしました。

怒りを制御するために、生じる原因となった状況を確認し、怒りを開放するためには、自己分析と議論を行うべきだと述べています。

多様性の受容の時代

現代においては人口減少の影響もあり画一的な価値観ではなく、多様性の受容する時代となっています。自分との価値観が違う存在に対しても、理性的にふるまうことが要求されるようになりました。このような背景もありアンガーマネジメントの必要性が高まっています。

アンガーマネジメントの効果と事例

アンガーマネジメントの効果(子育て)

子育てはわかりやすいアンガーマネジメントの事例です。

中国、インド、ケニア、イタリア、フィリピン、タイに住む292人の母親とその子供(8歳から12歳)を対象にした研究によると怒りっぽい親を持つ子供には様々な悪影響が出ることが分かっています。

怒りっぽい親を持つ子供は、攻撃的になりやすい。(特に体罰や怒鳴るなどの行為をしている場合は、子供の攻撃性と高い相関関係が見られた。)

タイムアウト(悪いことをした場合に物置などに入れたりすること)や落胆や恥ずかしいといったことを伝える親の子供は、不安症になりやすい。

怒りっぽい親を持つ子供は、共感力が低くなりやすい。

怒りっぽい親に育てられた子供は、将来、鬱になったり、パートナーや子供を虐待するリスクが高くなる。

親の怒りっぽさと子供の非行には相関関係がある。

引用:Global Kids (子供の英語学習と育児情報・海外情報を発信するブログ)

子育てにおいて、感情をぶつける「怒る」より、相手を良い方向に導こうとする「叱る」ことが大事であるゆえんです。

アンガーマネジメントの効果(職場の失敗)・事例

例えば、部下が業務上で失敗をしたとき、怒りをぶつけることによって、部下は萎縮してしまいます。

まず怒りを抑え、何故失敗したのか、原因を考えことが大事です。例えば、部下の経験不足で失敗したのならば、経験を積ませる機会を与える、部下の業務負担が重いのであれば、支援の手を差し伸べるなど、同じことを繰り返さないための対策がたてれます。

怒るだけならば、同じことを繰り返すばかりか、部下の離職を招きかねません。

また、時代の流れとしてハラスメント対策が言われており、怒りはパワーハラスメントを引き起こしかねません。ハラスメントについては、以下の投稿もご参考ください。

ハラスメント対策と心がけ

アンガーマネジメントの効果・事例(職場の納期遅れ)

怒りは、目的を達成できなかったことによっても起こります。自分の中で「~であるべき」と考えていたのにもかかわらず達成しなかったことなどがあげられます。例えば、部下の仕事が「●●日までに、達成し上司に報告すべき」と考えていたのにもかかわらず、進捗を確認したところ放置されていた時に怒りを感じることがあったとします。

アンガーマネジメントの対処として、6秒間考えます。「対処することで変えられるか、変えられないか」「重要か、重要でないか」です。

納期遅れについて、重要でかつ対処が可能であれば、部下に話をし、自分が動くことによって納期遅れの悪影響が広がらないようにアクションを起こします。重要でないが対処可能であれば、タイミングを見計らって指示すればよいでしょう。重要だが対処不能であれば、同じことがおこらないようにしっかり部下と原因と改善策を話しあいます。重要でもなく対処不能であれば、怒る価値もないかもしれないので優先順位を下げるのです。

アンガーマネジメントの効果(生産性)

ジョージタウン大学マクダナー経営大学院の教授であるクリスティーン・ポラスとフロリダ大学のアミール・エレズ教授が行った実験では怒りは生産性を下げることを証明しています。

グループを分けて単語の綴りを入れ替えるパズルゲームしました。けなされた参加者は、けなされなかった参加者よりも成績が33%悪くなりました。暴言を吐かれたグループにおいては61%成績が悪くなりました。他人が暴言を吐かれていることを見聞きしたグループでは25%悪くなりました。

このように、怒りを見聞きすることは職場における生産性を低下させるます。

怒っているばかりの人とは、話しかけづらいものです。怒りを抑えることで、職場のコミュニケーションが円滑になります。円滑な人間関係は、職場の生産性を向上させます。

アンガーマネジメントの研修・取組

アンガーマネジメントは、教育、起業、地域家庭、医療・福祉において、幅広く有効です。アンガーマネジメントの研修・メリットの考え方は以下の通りです。

ストレスマネジメント

怒りの感情をおこったときに、自分でコントロールします。心身を意図的に落ち着かせます。6秒間数えいて、自分の中の怒りの点数をつけてみると客観視につながり、怒りを抑えることができます。

その場から離れる

怒りの対象から離れることによって、怒りを鎮めることができます。トイレに行く、自販機に向かうなど理由をつけて、その場を離れてみることで冷静になれます。

「~すべき」という価値観を見直す

目的を達成できないとき、こうあるべき、すべきというこだわりや価値観を裏切られたときに怒りを感じます。そのこだわり・価値観は自分にとってであって、相手にとってではありません。自分の中の思い込みを一度見直して、相手の立場や価値観を思い返してみましょう。

認知変容

「どんな困難があろうと、人は変わることができる」ルーヴェン・フォイヤーシュタイン 

怒りやすい性質の原因と対策を考え、自分を変えていきます。

傾聴

相手の事情を理解することによって、一方的な怒りを抑えます。

傾聴のスキルについては以下の投稿もご参考ください。

傾聴のスキル

アサーティブコミュニケーション

自分と相手を受容し、尊重することで、感情的にならないコミュニケーションを行います。

アサーティブコミュニケーションについては、以下の投稿もご参考ください。

アサーティブコミュニケーションとは

アンガーマネジメント診断

日本アンガーマネジメント協会では、無料の怒りのタイプテストを行っています。

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自分が怒りを覚えるタイプを自覚することによって、管理する方法を見出します。怒りを覚えるタイプは以下の6通りです。

  • 公明正大タイプ

正義感が強くて、ルール違反や曲がったことが嫌いなタイプです。

対策:性急に他人にルールを押し付けすぎないことです。自分が行動で見本を見せることで相手に気づきをうながします。良好な関係と、秩序の維持にはむしろ後者の方が有効です。

  • 博学多才タイプ

完璧主義です。「良いか、悪いか」「好きか、嫌いか」で物事を極端に判断します。 

対策:自分と同様他人には完璧を求めすぎないことです。多面的なものの見方を学び、他人を受容する心がけを行います。

  • 威風堂々タイプ

自尊心が高く、自信家です。積極的である反面、他人に対して威圧的になることもあります。

対策:他人にも、義務だけでなく権利があるという思いやりの気持ちを意識するようにします。

  • 外柔内剛タイプ

あたりは柔らかいですが、内には強い秘めた意志があります。

対策:思い込みが激しく、ときには周囲と乖離する場面があることを自覚します。

  • 用心堅固タイプ

慎重で、他人をなかなか信用しないタイプです。

対策:他人の良いところを見出す心がけを行います。

  • 天真爛漫タイプ

素直に目標に向かって行動する反面、自己主張が強く他者とぶつかる場合があります。

対策:時には、自分が主役ばかりでなく、わき役になった方がうまくいくという発想の転換を行います。

アンガーマネジメントの3つの考え方

自分のタイプを知ったうえで、アンガーマネジメントには、以下の3つの考え方が有効です。

  • 後悔しない理性的な行動をとるために、理性をつかさどる大脳辺縁系が働く6秒待ちます。
  • 「~するべき」を開放します。自分にとっての価値基準の「べき」は、他人から見たときに必ずしも守らなければならないルールとは限らないことを認識します。
  • 自分にできる範囲のみコントロールします。自分の力が及ばないことに対して怒っても、無駄です。

まとめ

怒りは、本能ではありますが、人間社会においては弊害が多いのも事実です。あらゆるシーンにおいて怒りに任せて行動しないような自己管理の在り方が、どのような人にとっても取り組むべき課題といえます。

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