オンボーディングとは、新しく入社してきた人材を歓迎の精神で受け入れ、早期になじんで力を発揮できるようなコミュニケーションの場づくりや研修プログラム全般を指します。
終身雇用の時代から、人材の流動化が進み、新規学卒者の離職率(高卒、短卒の3年以内離職率40%、大卒30% 厚生労働省)や正社員転職率が上昇しています。
組織と新入社員の早期融和は、ますます重要な経営課題の一つとなる中、オンボーディングの取り組みが注目されています。
オンボーディングとは(由来、背景)
オンボーディング(on boarding)は、「船や飛行機に搭乗中」という意味から来た言葉です。
新しく船や飛行機に乗り込んだ乗客やクルーは、環境に慣れる必要があります。そのための支援プログラムをオンボーディングと言いました。
そして米国では、新しく職場に来た人に「Welcom on board」(搭乗を歓迎します)と声を掛けます。
オンボーディングは、新入社員研修をはじめとして、新人が会社・組織になじんで力を発揮するための教育や支援、受け入れ体制づくりのプログラム全般を指すようになりました。
オンボーディングの実施内容
理念・ビジョン・行動規範・クレドの共有
組織が何のために存在して、どこを目指して、どのように行動するべきかを共有化します。
社外向けにはホームページ、社内向けにはイントラネット(組織内システム)に開示します。
朝礼などで唱和を行ったり、冊子にして配布する場合もあります。
より浸透をはかるためには、評価制度に組みこむことも有効です。
理念、ビジョンについては下記投稿もご参考ください。
職場ルール、組織風土の周知、ビジネスマナーの徹底
職場には独自のルールや風習があります。社内メールやチャットマナー、朝礼の有無、すべての社員はさん付けで呼ぶ、役職をつけて呼ぶなどです。
中には、一般的なマナーと異なる風習もありますが、新入社員が浮かないように、職場独特の風習は、きちんと入社後に教えておくとよいでしょう。
新入社員研修
中途採用と新卒採用では、研修の体系が異なります。新卒新入社員研修で最もポイントとなるのは、社会人と学生の違いです。
お金を払って学ぶ立場である学生と、お金をもらって組織に価値を提供する社会人の大きな違いはプロ意識です。
学生であれば大目に見られてきたことでも、社会人となればそうはいきません。
そのほか、報告・連絡・相談について、電話の取り方、接客、来客の応対、会議などの準備について基本的なことを徹底することはビジネスキャリア上重要です。
体系立てて研修などで習得する必要性があります。
報告連絡相談については、下記投稿もご参考ください。
メンター制度
メンター制度は、年齢や社歴が比較的近い先輩社員が、若手社員、新入社員に助言役として配置する制度です。
英語の mentor (相談者、助言者)がもとになっています。
比較的目線が近いメンターを得ることによって、上司には相談しにくい悩みを打ち明けることができます。若手や新入社員の離職率の低下を狙いとしています。
OJT
OJT(On the Job Training)は、職場において上司や先輩が、実際の仕事を通じて業務知識や技術を教育することです。
対義語としてOff-JT(Off the Job Training)は、職場外で人材教育を行うことを指します。新人集合研修などは、 Off-JTです。
1 on 1
上司と部下の相互成長とコミュニケーションの円滑化を目的としています。詳しくは下記投稿をご参考ください。
交流、コミュニケーション企画
食事会や、歓迎会、社内イベントを通じて相互理解を深めます。オンボーディングにおける交流・ コミュニケーション企画のポイントは、中途・新卒問わず入社を歓迎する姿勢を見せることです。
新卒採用が定着化している企業であれば、受け入れ側も仕組みが整備されています。新卒採用同士の連帯感が離職の防止になります。
中途採用の場合、仕事のやり方や価値観が前職での影響を受け、新職場でなじめない場合があります。
中途採用のオンボーディングには、交流・ コミュニケーション 企画や職場の価値観の理解が特に重視されます。
近年においては、SNSや社内ポータルサイト、チャット、メーリングリストなどのによる交流企画も有効に活用されています。
オンボーディングの目的と効果
オンボーディングには社員のエンゲージメント(忠誠心)をたかめ、離職率を低下させる効果があります、人材の採用、教育は企業継続の最も重要な要素である一方、大きな固定費です。育った戦力の離職は、経営にとって損失です。
従業員満足度については下記投稿もご参考ください。
オンボーディングの事例
オンボーディングの事例 株式会社 博報堂
広告代理店では、電通について業界第2位の会社です。
新卒採用が中心で、毎年百数十名が入社していました。2016年ごろから中途入社が増え、年間200名以上が入社するようになりました。多忙な現場で、定着不全がおこりました。
毎月懇親会、ランチ会を毎週行い、ウェルカム感の醸成のため「入社おめでとうございます」という言葉は使わず、「入社ありがとうございます」言っています。
物事を決めるためではなく、新しいアイデアを生み出すために会議を行っている「HAKUHODO WAY」の理解をしてもらいます。
月次導入研修で、「役員によるウェルカムメッセージ」で、会社の歴史や今後について、業界の考え方、行動規範や情報セキュリティ、社内システム、人事制度、福利厚生などについてお話しします。
キャリアのための自己理解をしてもらい、博報堂でどういうことをしたいかを確認します。
「先輩セッション」、「H(博報堂)、MP(博報堂DYメディアパートナーズ)の泳ぎ方」と題して、中途入社から数年経過している先輩を囲んで、質問したいことを率直に聞ける場を設けています。
年に2回開催、「On Board School」という博報堂ならではのプログラムで、「キャリア同期」同士の連携を深め、社員エンゲージメント(忠誠心)を高める取り組みを行っています。
引用参照:HR RUNNERS vol.9
オンボーディングの事例 株式会社メルカリ
フリマアプリ「メルカリ」の企画・開発・運用をしているメルカリでは、下記のオンボーディングの取り組みを行っています。
1.充実したエンジニアオリエンテーション
メルカリのCTO(最高技術責任者)がエンジニアリング組織の体制、現状の課題感や将来の展望について、新入のエンジニア社員にプレゼンします。
2. オンボーディングポータル
オンボーディングで必要な情報をオンボーディングポータルに集約し、必要な情報にいつでもすぐにアクセスできる環境を整えています。 リモートワークでも必要な情報を入手することができます。
3. 知識豊富なエンジニアからメンターをアサイン
業務で関係づくりをしたほうが良さそうなメンバーを招待して、一緒にランチをする制度があります。
4. リモートメンターランチによる横のつながり構築
Google Meetでつながりながら、 業務で関係づくりをしたほうが良さそうなメンバーを招待して一緒にランチします。
5. オンボーディングサーベイによる状況チェック
オンボーディングの達成度合いを図る目安として、各技術領域ごとに独自のKPI(重要業績評価指標)を立て、進捗確認をサーベイにて実施しています。
引用参照:株式会社メルカリ ホームページ
KPIについては、下記投稿もご参考ください。
オンボーディングの事例(日本オラクル株式会社)
日本オラクルのオンボーディングとしては、先輩社員が新卒・中途社員をサポートする「バディー制度」があげられます。
またOJTにおいて、上司の負担を軽減しながら充実したフォローを行うための「ナビゲーター」や、「サクセスマネージャー」という専任のスタッフを配置しています。
2016年1月に「社員エンゲージメント室」を立ち上げ、年間100名規模で行っている中途入社の社員向けに経営理念や、ルール、組織形態などの研修プログラムを提供しています。
結果として日本オラクルは、社員エンゲージメント率85%という非常に高い成果を得ることができました。
まとめ
オンボーディングの取り組みは、旧来からあった新入社員研修から、ITツールをつかったコミュニケーションの仕組みへと広がりを見せています。
新型コロナにより進むリモートワークは、ネット環境におけるオンボーディングの仕組みを重要なものとしました。
根本として重要なのは、新入社員に対して、受け入れ側が、歓迎の精神をもってサポートする姿勢です。
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